魔法科高校の劣等生

□九校戦編2
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その後、七草先輩が到着し、バスは目的地に向けて出発した。

雫のフォローもあって、深雪の剣呑とした雰囲気も収まり、下心のある生徒たちはここぞとばかりに深雪に話しかけていた。

あまりに群がる男子達に渡辺先輩がついに切れ、深雪と私を彼女たちの後ろに、私たちの後ろには十文字先輩が睨みを利かせるという席順になった。

深雪も顔には出さなかったが、流石に逃げられないバスという状況下で話したくもない相手と話をするのは苦痛だったようだ。

「席は余ってるのにどうして別なのよ」

生徒たちは夢の中に飛び立っていたり、話に花を咲かせたりと思い思いの行動をとっていた。

ちなみに前にいる千代田先輩は五十里先輩と別なのが気に食わないそうで、渡辺先輩に盛大に愚痴を零していた。

噂には聞いていたが、本当に一時も離れたくないらしい。

隣に座っていた渡辺先輩は流石に呆れて疲れた様子が窺えた。

「お前、少しは雅を見習ったらどうだ。
あいつも同じく婚約者が別にもかかわらず、文句ひとつ言わないぞ」

「え!!!
雅ちゃんって婚約者いるの?!」

私の前の席に座っていた千代田先輩が立ち上がり、後ろを振り向いた

「千代田先輩、バスの中でいきなり立たれると危ないですよ」

「いいから答えなさいよ。
誰よ、誰!!
手伝いスタッフの方にいるの?
それとも応援に駆けつけてくるの?」

好奇心ではつらつとした顔で私に迫る。

彼女とはあの一件以降、仲良くさせてもらっており、話しかけられることが増えた。

殆どが勝負を持ちかけられることが多いが、時々盛大な惚気も聞かされることがある。

そんな千代田先輩は五十里先輩と婚約しており、校内でも有名なカップルとなっている。

原因となった渡辺先輩を見ると、申し訳なさそうに手を合わせていた。

ちらりと深雪に助けを求めれば、にっこりと深雪は微笑んだ。

嫌な予感がする。



「お兄様ですわ」

………ブルータス、お前もか

「嘘、司波君?!」

バスの中にその声が大きく響いた。
聞き耳を立てていた人達以外にも、伝播しているのが分かる。

「マジかよ」
「え、司波兄が…」
「嘘だ…」

それぞれ別々の話をしていたにも関わらず、バスの中にはざわめきが広がり、それと同時に私たちの会話に聞き耳を立てられているのが分かる。


「深雪」

「あら、今更ではありませんか。
お姉様とお兄様が天より高く、海よりも深く想いあっていることは事実でしょう」

深雪の明言に再びバスの中がざわめいた。




「付き合ってるだけじゃなくて、婚約……」
「え、これ、夢」
「残念ながら現実だ」
「ちくしょううううううう(小声)」
「うわあああああああああああ(小声)」
「え、お前九重さん派だったの?」
「おのれ、司波兄め・・・・」

男子からの声は聞えなかったふりはしたが、あまり気分のいいものではなかった。

未だ目を白黒させながら千代田先輩は私に聞いた。

「雅ちゃん。司波君とクラスも違うなら尚更、一緒にいたいと思わないの」

「千代田先輩は五十里先輩と達也さんが乗っている車がどの機材を積んでいるのか、ご存じですか?」

「機材?」

「ええ。お二人は棒倒しで使う機材を乗せた車にいらっしゃいます。
機材の最終チェックにも余念がありませんでしたよ。
それって千代田先輩や深雪を大切にしたいと思う表れではありませんか?」


先ほどの不満げな様子から一転、千代田先輩は嬉しそうな表情を浮かべた

「そうなのかしら」

「ええ。実際、搬入の時からとても気を配っていらっしゃるようでしたよ」

「もう、啓ったら」

「お兄様も仕方のない人ですね。
私ではなくもっとお姉様に気を使っていただかなければ、愛想を尽かされてしまいますね」

「私は深雪を大切にしない達也なんて想像できないのだけれど」


どうやら千代田先輩だけではなく、別行動に不満を持っていた深雪も私の言葉に満足したようだった。

にこにこと満足げな深雪は私から見ても愛らしく、この場に達也がいないのは勿体ないと感じた。



不意に袖を引かれると、通路を挟んで反対側の雫が袖を持っていた。

「雅、婚約って今初めて聞いたんだけれど」

雫とほのかがまだ目を丸くしている。
エリカたちには話していたが、そう言えば雫たちには話したことはなかった。

二人ともなんとなく、私と達也が交際していることは知っていたが、婚約までは予想外だったようだ。

「ごめんなさい。話したつもりだったのだけれど、雫たちにはまだだったみたいね」

「じゃあ、雅さんって達也さんと結婚するんですか」

ほのかが視線を彷徨わせ、顔を真っ赤にさせていた

婚約という話題は初心な彼女たちには少々重い話題だったようだ。

「勿論です。お姉様にはお兄様、お兄様にはお姉様しか考えられないもの」

深雪が私以上に自信たっぷりに、なおかつ嬉しそうな様子で明言した。

「私が愛想を尽かされない限りはそうなるわね」

「ありえません。それこそ、天が落ちるようなことです」

深雪は先ほどの笑顔とは一転、私の言葉に一際真剣な顔をして言った。

「お姉様はもっと自信を持つべきです。
お姉様がどれほど、お兄様に想われ愛され、大切にされているかをご理解ください」

深雪はそう言うが自信と言われても、彼は私に友愛以上の感情を抱いていない。

それは理解している。

だからこそ、彼は深雪のためにも私と私の家を繋ぎとめるための“恋人らしい“行動をしてくれているのだ。

恋は人を愚かにすると言うが、まさに滑稽だ。

利用されていると知っていても、それでも彼らといたいと思う私は相当末期なのだから。


理性で恋ができるのならば、理性で本能を押さえられるなら、恋なんて存在しない。



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