魔法科高校の劣等生

□九校戦編2
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九校戦は例年富士裾野の軍用演習場で行われる。

立地の関係上、遠くの九高から現地入りし、調整をする。

一高は大会前の懇親会当日に現地入りするのが通例となっている。

集合時間は既に過ぎたが、バスはまだ発車していない。


七草先輩が家の都合で遅れるそうで後から別に行くという連絡があったが、2時間程度なら待つと十文字先輩と渡辺先輩が決めたことで待つことになっている。

技術スタッフは狭い資材を積んだ車両であり、尚且つ達也は出席確認のために外に出ている。

七草先輩しか遅れていないため、わざわざ外で待つ必要はないとは思うが、全員が一科生で尚且つ未だに敵対心を向けられるのは彼としては居心地が悪いのだろう。

その様子に、深雪が不満げな様子を浮かべているのは言うまでもなかった。

静かに怒っている深雪にほのかや雫も困っており、私に助けを求める視線を投げかけた。

「深雪。少し、席を外すわね」
「はい」

私が立ったことで二人からの視線がより強くなったが、仕方がない。

私はバスの外に出ると、日傘をさした渡辺先輩と制服をきっちりと着込んだ達也がいた。

遅れると分かっていながら二人とも律儀なことだと思う。

「どうした、雅」

「真夏のこの時期に外はお辛くありませんか?」

「何だ、それは?」

私は一枚の札を地面に張り付けた。
精霊に命令を下すと、地面から涼しい風が吹き抜け、周囲の気温が快適温度まで低下した。

「会長がいらっしゃるまでは涼しいと思います」

「そうだった。君は古式魔法まで使えるんだな。
障壁もなしに屋外で冷却魔法とは古式魔法も侮れないな」

渡辺先輩は興味深そうに地面に張った札を眺めていた。

日差し避けの魔法も組み合わさっているから、実際の気温以上に体感温度は下がっているだろう。

「実家では古式が主流でしたから。大会前ですのでお疲れの出ない様にしてくださいね」

「ありがとう」

「助かる」

二人に念のためにお茶の入ったペットボトルを渡し、私はバスの中に戻った。






深雪の雰囲気に何とかしようとほのかが声を掛けていたところだった。

「深雪、何か飲む?」

「大丈夫よ、ほのか。
私はお兄様のように炎天下で待たされていたわけではないもの」


ほのかの助けてと言う無言のメッセージを受けながら、私は深雪の隣に座った。

「外も冷却してきたからしばらくは大丈夫よ」

「お姉様、おかえりなさいませ」

「なんか札みたいなのを使っていたのは見えたけど、何してたの?」

雫は窓際なので先ほどの私の様子を見ていたようだ。

「簡単に言えばあの空間だけ冷房機能が効いている状態ね
室内と変わらないくらいの状態にはなっているわ」

「普通の冷却魔法ではないのですか?」

「それだと術者が魔法をかけ続けなければならないでしょう?
それを時間設定と地脈を利用した古式魔法で継続して発動できるようにしたの」

「じゃあ、魔法をかけ続けなくても魔法が発動したままになるんですか?」

「そうね。想子の供給は地脈の精霊が行っているから、魔法師はスイッチ機能のようなものね。
温度の設定は札の魔方陣がやってくれて、それにのっとって精霊が作用しているわ」

基本的に質量保存の円環理論を使った魔法だ。

水の精霊と風の精霊がその場の空気を冷却し、余分な熱量はその精霊のエネルギーとなる。

熱エネルギーは太陽光から出ており、術者は魔法発動のための精霊喚起だけを必要とする。

日光避けは単なる収束系の応用でありこちらは現代技術として確立されているものを、術式に一体化して入れ込んだだけだ。

殆どが既存の魔法であり、それを組み合わせただけだがインデックスが掲載を検討している段階にあると聞いた。


「それって、とてつもなく凄いことなんじゃないですか?」

持続魔法は現代魔法の課題の一つでもある。

設置型魔法式の導入や術式の効率化によって術式の発動時間は伸びつつある。

しかしながら、魔法はあくまで一時的な事象を改変するものであり、永続的な効果は望めない。

魔法式を保存して発動を継続させる方法は研究されているが、未だに成功した例はない。

「定期試験の後に発表された新しい魔法よ。開発は図書・古典部の協働ね
少なくとも難題と言われてきた飛行魔法ほどではないけれど、使い方次第では応用の幅は広いわ。
現段階では古式の術式のままだから、体系化が今後の課題ね」 

「お姉様も開発に関わられたのですよね」

「私はほんの触りの部分よ」

実家にも似たような術式はあったし、念のため確認したところプロセスが違うため公開しても問題ないとなった。

ただ、精霊への感受性が強いことと地脈を読める才能が必要になるため、まだ現代魔法への応用には程遠い魔法である。


「九重さん、そのことで少しお話をいいですか?」

市原先輩は私に話しかけてきた。

彼女も今回の研究には多少興味を持っている様子だった。

魔法理論において3年生の中でも特に優秀と聞いているし、論文コンペに向けての研究は重力制御型熱核融合炉の技術的な課題の解決らしい。

彼女の追及している研究でも設置型魔法を使用する機会があるのだろう

「ええ、私にお答えできる範囲でしたらどうぞ」

深雪も幾分か穏やかになったことだし、私は市原先輩の隣に座って彼女からの質問を受けていた。

途中で鎧塚先輩も巻き込まれ、サブスタッフとして市原先輩に協力している平川先輩と五十里先輩も参加してミニ討論会となった。


後から聞いた話だが、理論が苦手な生徒は日本語なのに日本語が分からないとぼやいていたらしい。







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