魔法科高校の劣等生

□九校戦編1
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そして放課後の準備会議。

内定者が一堂に集まる中で、達也に向けられる視線は敵対的なものも少なくなかった。

中には風紀委員としての実力を知っているために、そこまで不思議ではないと思っている先輩方もいるが、特に男子からの視線が厳しい。言わずもがな、森崎君をはじめとするグループだ。

彼らも実力はあるが、少々子供っぽいところもあり、プライドだけが高い。
彼らを横目に、私は先輩の中に見知った顔がいることに驚いた。


「鎧塚先輩も参加されるのですね」

「おう。作戦スタッフで市原先輩の手足だな」

「少し意外でした」

「どういう意味だ?」

言い方が悪かったのか、鎧塚先輩は眉を顰めた。

「てっきり、選手として出場されると思っていたので」

「ああ、一応補欠要員だぜ?まあ、知略・戦術は得意分野だからな」

「彼の戦術には目を見張るものがあります。
少々突拍子もないことも多いですが、概ね期待していいと思いますよ」

彼を推薦したのは市原先輩らしい。
確か剣術部でもどちらかといえば戦術家だと聞いている。




会議が始まると案の定、達也の技術スタッフ入りを支持しない生徒も多かった。

雫やほのかは応援する側だが、様子見半分の生徒、反対意見半分強の様相となっている。

グダグダと感情的な意見が多くまとまらない中、十文字先輩からの提案で達也の力量を見ることになった。

実際の調整を受ける役に十文字会頭や七草先輩が立候補する中、その役を買って出たのはあの桐原先輩だった。

新歓の一件を表面的に知っている生徒はかなり意外そうだったが、彼の男気ある行動に達也も心なしか嬉しそうだった。



指示された内容は桐原先輩が普段使用しているCADの起動式を競技用CADにコピーし、即時使用可能とすること。

ただし起動式には変更を加えない事という条件だ。

スペックで劣る競技用にハイスペック機種の起動式をそのまま移行するのはあまり好ましいことではないが、安全第一にと言って達也は調整を始めた。

起動式のコピーと測定は時間がかかることなく終わり、達也は調整に掛っていた。

普通はここにグラフ化された本人のデータや二つのCADのデータが表示されて、微調整していくだけだ。

だが、達也は測定後、じっと画面を真剣に見つめていた。

深雪と私はいつもの見慣れたことなので安心してみていたが、興味を持った中条先輩は画面を覗き込んだ。

「へっ?」

華の乙女には少しばかり似つかわしくない、間の抜けた声が聞えた。

画面には数字の羅列、つまりグラフ化されていない生データが並んでいる。
そのデータを元に、達也がキーを高速で(といっても達也にとっては普通のスピード)で叩き、サイオン測定波のデータをコピー元に適合するように調整していく。

目まぐるしく画面が移り変わって数字が流れていくが、目で追えている生徒は私と達也だけだ。

多くはそのキーボードタッピングに目を奪われているようだが、技術スタッフの優秀な人は達也がどれだけ高度なオペレーションをしているのか理解していた。


時間にしておよそ5分もかかっていないが、調整は終わった。

起動式自体には手を入れていないため、時間自体はそれほど必要なかった。

桐原先輩は少々緊張した様子で、CADを腕に付け、魔法式を展開させた。

「桐原、どうだ?」

「問題ありませんね。自分のものと比べても全く違和感がありません」


それは過小評価も過大評価もしていない、純粋な感想だった。

しかし、魔法を問題なく発動出来ただけであり、平凡だと指摘する上級生も多かった。

まだ難癖を付けるつもりだろうか。

意外にもすぐさま反論したのは中条先輩だった。

「私は司波君のスタッフ入りを支持します。彼が見せてくれた技術はとても高度なものです。
あれだけ安全マージンを大きく取りながら、すべてマニュアルで調整するだなんてとても私にはまねできません」

「でもそれだけ安全マージンを大きく取るより、効率を重視した方がいいんじゃないの?」

「それは…その、急だったからで・・・」

中条先輩は勢いこそ良かったものの、あまり弁の立つ方ではないようで、尻すぼみになっていた。

「補足説明させていただいてもよろしいでしょうか」

僭越だが、助け船を出すために手を挙げて発言を求めた。

「構わん」

「ありがとうございます」


十文字先輩の許可を貰い、私は反論していた先輩の方を向いた。

「携帯端末で学校の教育用端末のデータをそのままコピーしただけで、処理できると思いますか」

「そりゃ、当然OSも違えば容量も処理速度も違うだろう」

「彼が行ったことは、それを可能にしたといえば分かりやすいでしょうか。
つまり、携帯端末レベルのものに膨大なデータベースを植え込んだようなものです。
しかも安全かつ運用できるレベルで置き換えたといっても遜色ないと思います」

「まさか…」


少々分かりにくい例えだったかもしれないが、どうやら凄さは多少なりとも伝わったようで、反論していた先輩も驚きの表情を浮かべていた。

「桐原の個人のCADは競技用のものより性能が高い。
その性能の差を感じさせない技術は高く評価されるべきだと思いますが?」

私の言葉にさらに援護を重ねたのはこれまた意外にも服部先輩だった。


「会頭、私は司波のメンバー入りを支援します。技術スタッフの選考に難航している現段階で、肩書にとらわれるのではなく、能力にベストなメンバーを選ぶべきです」

九校戦はチームであり、学校の威信がかかっている。
下らない感情論よりも、優秀なスタッフの確保の方が先決だろう。


「決まりだな」

服部先輩の後押しもあってか、達也のエンジニア入りが正式に決まった。

達也も思いがけない後押しに、少しだけ笑ったように見えた。



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