魔法科高校の劣等生

□九校戦編1
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いつものように生徒会でお弁当食べていると、自然と話は九校戦の事になる。

今一番難航しているのは技術スタッフであり、学生でCADの調整ができる人材は貴重らしく、今年度は特に3年生は魔法師志望に偏っているそうだ。

2年生は中条先輩や百家の本流、五十里先輩など優秀な人材がいるが、まだ必要な人数が確保できていない。


競技日程は10日間に渡るとはいえ、競技は5種目、そのうち各校から3人まで出場できる。

一人の選手が参加できる競技は二種類まで。

選手一人一人、サイオンの特徴も異なれば、得意な魔法も異なるため、調整内容が変わってくる。

会長や十文字会頭は自分で調整できるそうだが、そうでない方が多数だ。


「摩利がせめて自分のCADくらい調整できるようになればいいのに」

「いや、深刻な問題だな」

渡辺先輩は七草先輩や十文字先輩と並び称される【三巨頭】の一人であり、高い魔法力があるがCADの調整はまた別の話らしい。

力なく机に突っ伏す七草先輩はどうやら相当行き詰っているらしい。

話の流れを察知してか、達也が私たちに目くばせをした。


「では俺はこれで」

厄が回ってくる前に、お弁当を持って立ち去ろうとした。だが、彼は厄星に愛されているようだ。

「だったら司波君に技術スタッフをやって貰えばいいんじゃないですか?
深雪さんと雅さんのCADは司波君が調整しているんですよね?」

「え?」

「盲点だったわ!」

達也を風紀委員に任命した時同様、いやそれ以上に嬉々とした様子で達也を技術スタッフに推薦することにした。
風紀委員会のCADも達也が調整しているし、中条先輩も深雪のCADの出来栄えには感嘆していた。

だが達也は二科生であること、CADの調整はユーザーとの信頼関係が重要なことをあげ、断ろうとしていた。

「私は九校戦でもお兄様にCADを調整していただきたいです。
お姉様もそちらの方が安心でしょうし、いけませんか」

「そうよね。深雪さん達も信頼できるエンジニアがいてくれたら嬉しいわよね」

「ええ。お兄様がエンジニアならば光井さんや北山さんも安心して全力を出すことができます」


深雪にそこまで期待されてしまえば、達也の性格上断ることはできない。

むしろ反対意見をねじ伏せる様プレゼンをしなければならないだろう。

「ダメかな?」

私もお願いすると達也は眉を下げたが、ここまで来てしまえば王手だった。




達也はもはや諦めモードに入っていた。

その後、気を紛らわすためか、普段は生徒会室ではしないCADの調整を行っていた。

それに気が付いた中条先輩は調整途中の達也からシルバー・ホーンを借り、うっとりとした様子で眺めていた。

前々から思っていたが、中条先輩はデバイスオタクらしい。

普段の大人しい様子とは打って変わって、新鮮だった。

「そういえば、あーちゃん、課題があるとか言ってなかった?」

「ふああああ」

昼休みも三分の二を過ぎたところで、中条先輩はやらなければならない課題を思い出したそうだ。

可愛い後輩のため、七草先輩が手伝うことを申し出た。

課題は現代魔法の三大難問がなぜ解決できないかであり、二つは理解できたそうだ。

「常駐型重力制御魔法がどうして実現できないのか上手く説明できなくて…」


常駐型重力制御魔法。つまり、重力を操作し、飛行する魔法だ。

重力を軽減して跳躍や落下を防止する魔法や、空中を一定距離移動する魔法は存在する。しかしながら長年飛行魔法は実現に向けての実験が行われているにもかかわらず、未だに三大難問に数えられている。

魔法は連続で発動し続けると前の魔法式に対して上書きを行うため、前の魔法以上の干渉力が必要になる。過去には飛行魔法も確認されているが、基本的にBS魔法、つまり超能力的な俗人的技術として見なされている。

「理論と個人技の中間にはなりますが、一応古式魔法で飛行の定義はできていますよ」

「本当ですか?!」

「ええ。汎用性に乏しいですが、理論として実証されています。」

「これですね」

古式魔法の話が出たので、私が言葉を挟むと市原先輩が生徒会室にある端末で論文を出してくれた。

「精霊喚起による限定的飛行術式です。
魔法陣を描き、回路の役割を果たす術者を陣に配置し、精霊を喚起して飛行を行います。
いわゆる重複魔法の応用だと考えてください」

「ちょっと待って、こんな術式で本当の飛べるの?」


中条先輩と七草先輩が半信半疑で論文の内容を見ていた。
確かに古式魔法に精通していないと、この理論は分かりにくいだろう。

「ただ飛ぶ方も、陣に作用する魔法師も想子量が相当量必要ですので、飛行可能時間はおよそ5分が限度です。
限定的と言う言葉があるように、自由自在に宙を舞う範囲は限られています。
重力制御ではなく、指定領域内の気流を操って前後左右上下に移動しているんです。
あまり実用的とは言えませんが理論上は重力に逆らって自由に飛行していますね」

「つまり、5人がかりで一人を飛行させると言うことですか?」

「ええ。魔法の相克が起こらない様に、あくまで術式自体は精霊の喚起です
一定空間内の風にまつわる精霊の密度を上昇させることで、気流を操りやすくするのが特徴ですね
実用的というより、目的としては歴史上の再現実験になります」

「なるほど」

「でも今回は常駐型の重力制御ですので、参考にはならないと思います。
蛇足でしたら申し訳ありません」

「いえ、とても勉強になりました」


実はこれ以外にも空を飛ぶ方法はある

四楓院家お抱えの【織姫】。彼女の作る最高傑作の一つが「天の羽衣」と呼ばれる織物だ。

一見はただの精巧な織物にしか見えないが、手にするとそれは羽よりも軽く、さらに複数の魔法が編み上げられた魔法道具だ。

風の精霊に対して感受性の高い織物であり、そこには気流の操作と重力の軽減魔法が組み合わされており、纏った者に空を飛ぶという能力を与える

稀に文献では聖遺物として取り上げられている代物だ。


現代技術をもってしても作成不可能と言われる聖遺物。

しかし、天の羽衣は作れる人材と使用できる者が限られているため、その作成方法は四楓院家によって秘匿にされている


さて、話は戻るがなぜ飛行魔法が実現不可能なのか。

魔法式は魔法式に作用できないという大前提がある。

魔法が終わる前に新たな魔法を発動するとそれだけ干渉力が必要になり、それは領域干渉も例外ではない。

イギリスの実験はその点についての認識が間違っており、失敗したのだと達也は説明した。

流石、今研究しているだけあって詳しい。

達也の説明に呆気にとられる先輩に無情にもお昼の終了を告げる鐘が鳴った。










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