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□帰り道
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珍しく、というかはっきり言って初めてのアギトくんと歩く帰り道。
イッキくんとアギトくんは今は家がないハズだし、普段はこの道すら通らないのに…。
(何か用事でもあるのかな?)




「………」

「………」


沈黙の中、ただ歩いていく。


「あ、あの…」


この空気に耐えきれなくなり思いきって口を開いてみると、アギトくんが何か呟いた。



「調律…」

「え?」

「…調律、亜紀人が筋がいいって言ってた」



え、えっと、褒められてるんだよね…?



「そう?あ、ありがとう。」


まだまだ技術と知識が追い付いていないのはわかっているけど、お世辞でも褒められるのはやっぱり嬉しい。






「お前、亜紀人には笑うんだな。」

「ん?」




何を言われてるんだろう…




「俺と居るときは笑ったことねぇじゃねぇか。」


少し伏せ目がちに呟くアギトくんがほんのちょっと寂しそうで
私はその寂しさを拭いたくて…



「それは、アギトくんだからだよ」

「なんだ、俺がツマらねぇって言いてぇのか」

「違うよ。アギトが、好きだから。その、上手く話せなくて…それで…」


私自身、とんでもない事を口走ってる自覚はある。
だけど少しでも気持ちを知って欲しくて。



「だから、つまんないとかじゃなくて…緊張…してるだけだから」



勢いで言ってみたものの段々と恥ずかしさが込み上げてくる。
家の前まで来ていた事もあり、言い逃げよろしくアギトくんに背を向けて家に入ろうとするけど―


「じゃ、じゃぁこれで…」

「…待て」


腕を掴まれて動けなくなる。


「そ、その…」


今度はアギトくんが何か言いづらそうに口を開く。


「俺も…別に嫌いじゃねぇ、ぞ」


顔を真っ赤にして言う彼に釣られてあたしの頬にも熱が集まる。


「えっと、それはつまり…」


さっきした告白への返事と取っていいのかと問おうとしたのだけれど…



「あ、あれ?咢?どうしたの?」


いつの間にか亜紀人くんになっていたようだ。

亜紀人くんは不思議そうに首を傾げたあと、私に向き直ると笑顔で言う。


「あ、中山さん。昨日変な人に絡まれたんでしょ?咢が心配だって言ってたよ」

「!…////」



(それで一緒に…)

返事が貰えなかったのはちょっと残念だけど、また今度聞いてみようと思う。

取り敢えず、今はこれだけ…



「送ってくれてありがとう、咢くん」






終わり。
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