長編
□甘美なる調べ
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ききなれたーーといってもそれは単なる使用されている楽器の話。
今まで聞いた洋館から流れてくる音楽に、圧倒されていた。
穏やかで、美しいメロディ。
時々ひっかくように混じる三連符は、まるでこうやって呆然と立ちすくむ私を笑っているかのようで。
かと思えば次の瞬間には絶望的なまでに暗い音階に私の心は深く沈む。
目の前の館から少し漏れでるだけの音に、私は完全に捕らわれていた。
ーー会いたい。
そう思った。
つい先ほどまで幽霊が住んでいるかもと思っていたことなど、すっかり忘れて。
今はただ、会いたかった。
この、天上の音楽の主に。