小説

□溺れた魚
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海の中の溺れた魚。

溺れた魚は言った。

「人間の世界ってどんなだろうね。」

憧れのような眼で海面を見上げる。
海面からは太陽の光。
そのまぶしさに眼を細める。

「僕、一度見て見たい。人間の世界を。」

溺れた魚は考えた。
どうしたら人間の世界へ行けるか。
考えても、考えても、結論はでてこない。

溺れた魚は人間の世界へ行くため考え、実行していった。
ときには、途方にくれる距離を泳いでみた。
ときには、海面から思いっきりジャンプしてみた。

しかし、溺れた魚が人間の世界へ行くことはできなかった。

そんなときに起こった事。

溺れた魚は人間の世界へ行こうともがいた。
体力が尽きるまで、その道が途絶えるまで泳ぎ続ける。

だんだん餌のない場所まで来てしまった。
目の前には硬い壁。
海もだんだん浅くなってきた。

おなかが減って気が遠くなる。
そんな中に一筋の光。

餌が、溺れた魚の目の前を泳いでいる。
もちろん溺れた魚はなんの躊躇もなく、喰らい付く。


それが、地獄への扉。


思い切り海面の外に引っ張り出される。

溺れた魚は急に息ができなくなった。
もがいても、もがいても、息はできない。

ただ、感じるのは、浮遊感。

なぜだろう?
なぜ息ができないのだろう?
この感じは何なんだろう?

溺れた魚は考えた。


「ああ、そうか。僕は地獄にきてしまったんだね。」


直後、溺れた魚は岩に叩き付けられた。


『 溺れた魚 』

人間の世界に溺れた魚。
溺れた魚は憧れから、地獄の扉を抜けてしまった。



end.

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