アマ燐

□深淵の夜明け
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人間と言うのは不可解だ、と思う。

その人間と言うものに縛られている奥村燐もまたアマイモンには理解しがたいものがあった。


悪魔の身でありながらヒトの世界から脱することができず、もがき苦しんでいる。自ら苦しい道を選択するなんて、感情のままに生きるアマイモンには理解できない。

悪魔であるなら本能のまま生きればいいのに、中途半端に人間として育てられた彼はヒトの鎖に繋ぎとめられ、今もまた―――。


(泣いてる)


学園から離れた公園のベンチに座っている燐にいつもの明るい面影はない。照らす夕日が俯く顔に暗い影を作り、まるで泣いているかのようだ。青い瞳から滴が零れている訳ではないが、どうしてなのかアマイモンには燐が泣いているように見え、その姿を目に焼きつけるように見開いていた。

夕暮れの公園に人間は誰もいない。
いるのはサタンの落胤ただ一人だけだ。

遠く離れた木の上から飛び降り、学園の屋根を飛び越える。アマイモンは数秒も経たぬ間に燐の前へと降り立った。


「お、お前ッ!」


アマイモンの存在に気付いた燐が、立てかけてあった魔剣を手に取る。それがさやから抜き放たれる前にアマイモンは手を前に掲げ制止した。


「待って下さい。今日は戦う気はありません」


静かな声色で言えば、燐はあからさまに気が抜けた様な表情をする。けれど、決して警戒を解くことはせず、蒼い両の目はアマイモンを睨み続けていた。


「じゃあ……何しに来たんだよ」

「君に少し聞きたい事があるんです」


強張った声色で問われた事に、淡々と答えを返す。

警戒の色を滲ませたままの燐が何も答えないのをいいことに、アマイモンは口を開いた。


「君は何故泣いているのですか」

「……は?」


見開かれた瞳に、何を言っているのか分からないと言われているようだった。直球過ぎただろうか。兄によく脈絡がないから前後を説明しろとよく言われる。だから燐にはもっと理解できないのかもしれないと思い、一呼吸置くとアマイモンは再び口を開いた。


「君は笑っている時、いつも泣いているように見えます」


蒼い瞳が大きく見開かれたと思うと、不意に顔を逸らされた。


「――……別に、泣いてなんかねぇよ」


嘘だ、とすぐに分かった。瞳を逸らすのは、どこかでそんな自分がいると気付いているからだろう。殆どの人間はやましい事があるとすぐに視線を合わせられなくなると聞いた事がある。

悪魔なのに心は人間で、なんて中途半端な存在。

すうっとアマイモンは目を細めた。


「君は本当に理解しがたい存在です」

「別に悪魔に理解なんてされたくねーし。つか何なんだよ!意味分かんねぇこと聞いてきやがって!」

「何故怒るんですか?」


感情というのは本当に厄介だ。

兄のように人間を理解しようと思ったこともないから、アマイモンにはどうして燐が怒っているのかも分からない。


「お前、訳わかんねぇ……っ」

「僕には君が分かりません」


燐はもう疲れたとでも言うように頭を掻き、そしてとうとう魔剣を手放した。ようやっと警戒が解かれたらしい。

アマイモンは魔剣を挟んだ隣に座ると、燐と同じ方向の夕焼けを見ながら口を開いた。


「観察ついでに、暫く傍にいてもいいですか?」

「……勝手にしろよ」




















END

兄弟らしいですが、まずはお友達から的な感じで続きます…!アマイモン難しいいい><。次は燐視点の予定!






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