*Dream*

□希
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この世は愛で溢れてる
それにアタシは包まれている


そう教えてくれたのはアナタだよ。




いつも授業サボっているのに頭はよくて
テニスも上手で、いつも飄々としていて
他人を寄せ付けない雰囲気を出してるけど
たまに見せる笑顔がすごく優しくて
温かくて。アナタは完璧だった。
アタシとは別世界の人間だったし
お互いを取り巻く環境もちがくて。
そんなアナタに憧れもしていたけど
少し苦手でした。


出会いはホントに急にやってきたね。
まだ涼しさが残る初夏。


いつもだったら課題を机に忘れても
取りに戻ったことなんてなかった。
でも日が延びたせいで放課後でも
外は明るかったし、日本特有のジトッと
した暑さもなくて。
アタシは寄り道する感覚で教室へ戻った。



ペタペタ



なんだか間抜けな足音を鳴らしながら
教室へ入ると、キラキラ輝く銀色。
色で表すならセピアな教室には
似合わないようなキレイな銀色。


一瞬、胸が高鳴った。
けどアナタとアタシは世界が違う。




ペタペタ




また間抜けな音を出しながら
窓際の席でたたずむ彼とは少し離れた
自分の席へと向かう。


(部活…いいのかな)


自分とは全く関係もないのに心配してしまう


(あ、課題あった。)


ファイルから課題を取って帰る。
普通なら3分もあれば終わるし
すぐに帰れるのに。
なんだか帰りたくなかった。


ガサガサ


無意味に机の中をあさってみる
アタシなりの悪あがき。


「…課題、か?」



ドクンドクンドクン


一気に心拍数があがって
背中が一気にしっとりと濡れた


「う、うん。なかなか見つからなくて…」
「俺の課題いまここにあるき、
写して帰るか?」
「えっ?い、いいの?」


少しでもアナタと長く居れる、
今まで何の関係もなかったのに
なぜかドキドキしている自分がいて


「ええよ、こっちきんしゃい」
「うん…」


鞄は置いて、ルーズリーフと筆箱を
もってアナタのもとへ



ペタペタ



彼の前の席に腰掛ける


「ほれ、これ」


細長く、外部なのに白い肌をした手が
薄い紙をそっと差し出した。
そのひとつひとつの行動にドキドキ


「あ、ありがと。すぐ写しちゃうね」
「ゆっくりでええよ、日ものびたし。
俺も暇じゃき」


そう言ってふ、と微笑んだ。
もう、心臓がもたないよ…


「ありがと…」
「ん、」


さっきの微笑みは無かったかのように
彼はスッと窓の外へ視線をうつした
アタシも急いで机にむかって必死に
課題をうつす。
急ぐけど字はキレイにキレイに。
汚い字なんて見られたら恥ずかしい。


カリカリカリ

カリカリカリ


「なぁ、おまんは彼氏とかおるんか?」


カリカリカ…リ


バッと顔をあげると彼と視線がぶつかった


「いっいないよ!なんで!?」
「ほーん。いや、別に意味はないぜよ」
「そ、そっか…」


少し目を泳がせてからまた机へ向き合う


カリカリカリ


また机に向き直りシャーペンを動かす。
するとサッと紙が引かれた。


「あ…」


そのせいでルーズリーフには変な
線が走ってしまった。


そっと顔をあげて彼を見つめると
またしても視線がぶつかる


「ど、どうしたの?」
「課題、本当はあるんじゃろ」
「え…」


何で、知って、るの?


彼は窓枠にかけていた肘を今度は机につけ
くまれた両手の甲に顎をついた。


「ウサギって寂しいと死ぬって知っとる?」
「うん…よく聞くよね」
「あれな、嘘らしいぜよ」
「そうなんだ…?」


視線をどうにかしてそらそうとするも
ルーズリーフはもう彼の肘もと。
外で活動していた部員達ももう居ない。


アナタとアタシだけ


「じゃあ、仁王雅治は愛されていないと
死ぬって聞いたことあるか?」


彼の口角が片方だけクイッとあがった


「ううん…初めて聞いたよ。」
「これは嘘じゃと思う?」
「うーん…どうだろう。でも仁王くんには
愛をくれる人はたくさん居ると思うの。
だからきっと本当だとしても仁王くんは
それに気づかない…んじゃない…?」


ほう、と言って両手にのせていた顎を
今度は片手にのせて、片腕だけで
頭を支えた。


「本当はな、本当だけど嘘じゃ」
「どういうことっ?」

ククッ

彼の決して派手ではない笑いが
静かな教室にひびいた


「確かに愛されてないとワシは死ぬ。
けど、ただの愛じゃダメなんじゃ。
愛し愛される愛じゃないと」


少し日が落ちてきていた。


「ワシに愛されるかわりに、ワシを愛してみんか?」


一瞬で彼の世界に初めて入れた気がした。
















アナタの好きな柔軟剤をいれて洗った
シーツ、枕カバーからは甘いような
匂いが溢れている。


ふわふわなベッドの上。


今まではせまい部屋にあるシングルベッド
で2人身を寄せ合ってこの匂いに
包まれていたけれど、今日からは違う。


1人用に作られた空間ではなく
2人用に作られた空間にダブルベッド。


前は狭い部屋にこの柔軟剤の匂いが
溢れていたけれど、今は匂いが静かに
身を潜めることになった。


けれど枕はひとつ。
この枕はアナタので、アタシはアナタの腕。


「ダブルベッドの意味がないね」


ふふっと笑うとアナタも優しく微笑む。


「今はな。でもそのうち三人になったら
シングルじゃ狭すぎじゃろ」
「気が早いね、雅治は」
「明日の式が終わって、この家に帰ってきたら
気が早いこともなくなるぜよ?」


ククッ、とあの頃と変わらない
笑い声が耳元をくすぐる。


「雅治。これからもズット、ズット雅治を
愛して生かし続けるね。」


すすっと彼の脇に頭を寄せる。
そうすると決まってアナタは枕になってる
腕をまげ、アタシの頭を優しく撫でる。


「愛してるぜよ」
「アタシも」


死ぬまでも死んでもアタシ達は
愛で包まれ続ける















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