薔薇薔薇世界
□ヘテロ結合体
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かつて人は女と男の結合体であったという。
神の逆鱗に触れて、身体を真っ二つに割られたから、男は女を求め愛し、女もまた男を愛し求めるのだと。
そんな話を聞いた事がある。
神様、こんな私の結合体の片割れもこの世ににいるのでしょうか…
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暖かな日差しが窓を貫き、部屋中に春の始まりを予感させていた。
「でさぁ、ほんと嫌になるんだよねぇ」
「え〜?いいじゃん里香の彼氏超優しいじゃん!」
「そうかな〜?でもあんまりしつこいのも考えものだよ〜」
もうすぐで次の学年に上がるであろう学生たちの恋愛話。声を抑えつつも盛り上がる雰囲気に思わずこちらまで
微笑みたくなるほどだ。
それはもう全力で。
『ったく、ここは図書館なんだよ惚気話なら余所でやれっての…』
文学
そう記された棚に羅列された、数多くの蔵書に向かって花音は毒を吐いた。
暇だ。頗る暇なのだ。
大学を経営している父に学校へ来てくれと言われ、仕事も休みで特に予定も無かったので来たのだが、如何せん肝心の父親が不在だという。
さして読みたい本があるわけでもないので、花音は美しく白い指で本の背表紙を辿っていった。
『…すっごい数…さすが天下のA大ね…』
図書館に来たのは学生時代以来かもしれない、花音にとって図書館は本を読む場所というよりは眠気を誘う巨大な寝室とでも言える。
歩いて見て回っているにも関わらずあの特有の眠気に襲われた花音は周りの音さえ聞こえなくなっていた。