薔薇薔薇世界
□獄
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マリア、人の世で生きるお前は美しい
涙を、弱音を殺し、顔を上げて立ち上がるお前は女神のようだ
俺を縛る人間の少女マリア
お前はあの日の約束を…覚えているだろうか
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「1、2、3、4…」
『はぁっはぁっ…』
「5、6、7、8…」
『あぁ〜どうしよう!こんなんじゃ見つかっちゃう!』
マリアは自分よりも背の高い迷路の壁を、駆け足で縫っていった。
少し癖のある長い髪が、風を絡ませては靡いていく。
疾走感が脳を支配している。共に湧き出たものは、恐怖と期待という感情だったかも知れない。
「9…10!!いくわよ〜?」
鬼役の従姉がそう叫んだ瞬間、何処かで息を潜めている少女たちの緊張感がマリアにも伝わってきた。
今日はマリアの16歳の誕生日だ。
親戚が集まり、大人になる彼女を皆で祝う為にパーティーが開かれている。
夜も更け、大人が皆ワイン片手にしっとりと語り合っている間、少女達は庭園にある、生垣で出来た迷路でかくれんぼをしているのだ。
『どうしよう…どこか隠れられそうな場所ないかな…』
夜の迷路は、外灯にぼんやりと、優しく照らされている。
ここ最近では入ることなんて全くなかったこの迷路だが、幼い頃は嫌なことがあるとよくここで泣いたものだ。
まるで新しいものを探す子供のように、柔らかい闇の奥を知っている大人のように、マリアは隠れるに相応しい場所を無心で探し続けていた。
背の高い生垣に光が遮断されている道が続いていたが、マリアが角を曲がった時、生垣が途切れて光が差し込んでいるのが見えた。
『こんな所に広場なんてあったかしら?』
さらさらとした土の地面を幾度となく蹴りあげてきた靴は、すでに白い粉を纏っていた。
ざり…
マリアは生垣に身を預け、光の漏れる空間を覗きこんだ。
ちょっとした休憩場所として作られたのだろうか、その空間の中心には彫刻の施された噴水があり、それはコポコポと心地の良い水の音を奏でている。
『……ここなら、そう早くは見つからないわよね』
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