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「それで、どうしたの。その傷」

「…ああ、これ…。…殴られたんだ、同級生の、女の子に。
折原君が、好きなんだって」

「ふーん、やっぱりねえ…」

「やっぱり…って?」

「風の噂で聞いていたさ。目星はついてる」

「え、ちょっと…やめてよ?その、復讐、とか…」

「大丈夫だよ。そんなあからさまにえみちゃんの立場が危うくなるような真似はしないさ。
ただまあ、えみちゃんに二度と痛い思いはさせないようにはするけど」

「ぐ、具体的には…?」

「んー。内緒」

「ええ…」

「ま、それより早く傷治さないとねえ。
はいこれ、湿布。痛いところに貼っておきなよ」

「あ、うん、ありがとう…。
わざわざ運んできてくれたんだもんね、…意外と優しい…」

「えみちゃんと一緒にいられる時間が増えるなら、俺は優しくも冷たくもなるよ」

「なっ…、…う、……今日はダメだ…。
もう泣いちゃったし…そういう言葉に対抗できる台詞思いつかない」

「じゃあ素直に甘えれば?」

「…べつに、甘えたりはしない、もん」

「こうやって大人しく俺に世話させられてるのは、甘えの印じゃないのかな?」

「ううっ…だ、だって…」

「ははっ、ゴメンゴメン。冗談だよ」

「………」

「どうしたの?」

「…折原君は、どこまで気付いているの?
っていうか何で…、いつから…」

「俺はね。人間観察が趣味なんだ」

「…え?」

「まあ聞きなよ。
折原臨也君は、人間が好きで、人間がどう生きるのかを観察して楽しむのが大好きでした。

そんな時、この学校で、ある女の子に出会いました。
その子は人望があり、クラスの優等生で、それはそれは頼りがいのある女の子でした。
―しかし、折原君はその子を観察するうちに、ある事に気がつきました。

あの子は、いつも笑っていない。
クラスメイトと談笑しているようで、いつどんなときも、本当に笑ってはいない」

「…………」

「折原君は不思議に思いました。後ろ暗い噂は聞かない。生活環境に悩みの種も無さそうだ。
ならば何故、彼女は笑えないのだろう?

そして折原君はとうとう見つけました。震える彼女の姿を。
本当の、彼女を」

「え……?」

「―去年の、文化祭あたりかな。君、当時は生徒会やってたよね。ええと、会計だっけ」

「あ、…うん」

「その時に、放送室で泣いてたじゃないか」

「―――っ!?」

「ああ安心して、知ってるのは多分俺くらいだよ。俺、委員会の当番でさ。
えみちゃんが入ってくる少し前からいたんだよ、そこに。
声をかける間もなくしゃがみ込んで…。まるでこらえきれなかったものを吐き出すかのように。

―その姿を見て、折原君は唐突に気がつきました。
こっちが本当の姿なのかもしれない、ってね。
それから観察する角度を変えてみたら、いろいろ解ってきたんだよ。


そうして―俺はいつしか、君から目が離せなくなった。
こんなに弱くて脆い彼女に、一体誰が気付くんだろうってさ」

「……」

「俺は君ほど馬鹿で真面目で優しくて面白い人間を他に知らない。
俺が守ってあげるってよりかは、他の誰にも渡さないって感じかな。
それとも、守ってあげるって言われたい?」

「……ううん、それでいい。
…強くなりたいってのは、どれだけ自分を苛んでも…やっぱり事実だから」

「ふうん、そう。まあ、耐えられなくなったらまた言ってよ」

「…ありがとう」







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