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「……」
思ったとおり、屋上には、数人の女の子がいた。
私を見るなり、ヒソヒソと何か囁きあう。
「何?何か用?」
とりあえずは同級生だったので、何気ない調子を装った。
如何なる時も冷静に。それが”私”。
「あんたさ、折原君と付き合ってんの?」
真ん中に立つ女の子が、その横の可愛らしい系の女の子をかばうように言う。
私は首を振った。…やっぱり、こういう話か。
「付き合ってないよ」
「だったらさー。何でああいうこと毎日言われて何も言わない訳?
冗談に決まってるじゃん、あんなの。なのに本気にして舞い上がってさ。いい気になりやがって」
「あんたみたいな女、折原君が好きになるわけないじゃん。思い上がるなよブス」
「エリが可哀想だと思わないの?エリ、ずっと折原君のこと好きなんだよ。どうせ気付いててわざとやってんだろ」
「サイッテー、この性悪女!性格も顔もエリのが絶対良いに決まってんじゃん!」
酷い言われようだ。
言いがかりにも程があるし、向こうの勝手な思い込みに過ぎない。相手なんかする価値ないよ、えみ。
私はわざとらしく溜め息をついた。
「…で、何。私にどうしろっていうの?」
「はあ?何その態度」
「普通エリに謝ることない?そんな神経もないの?」
「謝ればそれで万事解決?ふざけないでよね」
吐き捨てるように言い、キッと相手をにらみつける。
「折原君が誰を好きだろうと私には関係ない。
そんなに好きならこんなとこでバカみたいなことしてないで、ちゃんと告白すればいいじゃん。
私より可愛いのは事実だから、多分受け入れてくれるよ」
「…何コイツ。何様?」
案の定、相手は更にイラッとしたみたいだった。
さっきまでの小馬鹿にするような態度から変わり、今度は攻撃態勢に入っている。
―…やばいかも、私。
私の中の小さな弱虫は、とっくに危険信号を出していた。
でも、それを”私”が許さない。
「あんた、調子乗るのもいい加減にしなよ」
「マジうぜえ。殴りたいんだけど(笑)」
「つかもう殴ってよくない?じゃないと解んないよこの女」
「元々あんたのデカい態度、気に入らなかったんだよねー」
―ああ、私、殴られるんだ。
そうなったらもう、殴られるしかない。
力は、演技ではどうにも出来ないから。
せいぜい、不敵に笑っているくらいしか。
涙をこらえるくらいしか。
―絶対この人達の前で泣くものか。こんな人達に、本当の私を晒すものか。
そう決めて、目を閉じた。
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