‡†ダブルローズ†‡
□第八章
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ここは侍女ですら易々と入ることのできない、入り組んだ城の奥に位置するアリフィーの部屋。
ぎゅっと抱きつかれてからようやく解放されるとテーブルへ導かれ、アリフィーとブレイドが向かいの椅子へ腰掛けたあと、レイティも座る。
アベルは少し離れた所で壁に背を預けて立っていた。
「聞いて聞いて! 昨日ね、姉上が……」
侍女が用意したお茶へ口を付ける前にブレイドが身を乗り出すのも、毎度のこと。
その度にアリフィーが嗜める。
会いに来れば彼は楽しそうに話をする。相槌を打ちながら話を聞き、受け答えしているうちに自然と笑みが零れた。
誰が見ても、ブレイドがレイティのことを好いているのがわかる。でなければ王子がレイティのような立場の者に、これほどまでに懐くはずがない。
それはもちろん、彼女がアリフィーの専属侍女として護衛していた時の影響が大きい。
和やかな空気が漂う中で彼らの話を端から聞いていたアベルの口元も、面白そうに緩んでいる。
(あれを見た小僧の反応が見てみてぇな)
何せレイティのパートナーは独占欲の強い男だ、大好きと言わんばかりに懐いている王子の姿に、どう思うだろう。
とは言ったものの、ブレイド王子はまだキルと同じ十一歳だ。
好きと言っても、姉であるアリフィー王女に対するそれと同じようなものだと考えて良いはずだ。
そんなことを考えていると、いつもと違う展開が訪れた。
「レイティ、お願いがあるんだけど聞いてもらえる?」
突如そう言った王子にレイティは首を傾げた。アリフィーも不思議そうに弟を見つめている。