外伝集
□素敵な一時を
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首を傾げるレイティに答えたカインは、周囲の不可解な行動を無視することにしたのか手に持っていた書類に視線を落とす。それを合図にレイティも仕事を再開した。
だが一人だけ、こっそり二人の様子を見ていた者がいた。アベルだ。
会話を聞いていたアベルは仕事に戻った彼らを見ると、痒くもない頬を掻く。そして苦笑した。
さてどうしたものか。
(いやーまさかとは思ったけど、やっぱり期待を裏切んねぇなこいつら)
仕事人間のカインと、補佐のレイティ。予想してはいたが、ここまでくると重症である。
今日が何の日か、すっかり忘れているようだ。
――二月十六日。今日はカインの誕生日。
朝から周りの様子が変だったのは、一言祝いの言葉を言いたかったからだろう。しかしながら少しも気づいていないどころか、一つ仕事が片付けば休む間もなく次の仕事に取りかかる始末。
引き止める方も躊躇うはずである。
代わりに補佐のレイティに声をかけようとしても、こちらも反応がないときた。ほんと似た者同士だ。
そこまで思って、ふと一つの考えが浮上してきた。
(あり? レイ嬢ちゃんの反応が悪いのって、まさか……)
執務の手を止め、アベルは隣のレイティを盗み見る。目の前の仕事に没頭しているレイティが視線に気づく様子はない。
その横顔を見て、どうやら自分の勘が正しいことを確信した。