‡†ダブルローズ†‡
□第十八章
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「こんにちはー。どなたかいませんか?」
三人が情報収集のために入った店は、レイティが食材を買うために何度か立ち寄った店。いつも話しかけてくれる女主人は気さくで明るい人物だ。
しかしなかなか姿を現さない。
「留守なのか」
物音すらしない店内にハイドは呟くも、アベルは納得いかない模様。
「留守だったら店が開いてるわけねぇよ。忘れるなんて無用心な真似、几帳面なおばちゃんがするなんて考えらんねー」
「確かにしっかり者よね」
殺傷事件が絶えないこのご時世、施錠しない方が珍しい。ここまで静かだとさすがに心配になってくる。
だがその心配は杞憂だった。
「おや、レイティちゃんかい?」
後ろから声をかけられ振り返ってみると、貫禄ある女が入り口に立っていた。それはまさにこの店の女主人。
変わらぬ姿に安心するも、その表情が僅かに曇ったのをアベルは見逃さない。
「おばちゃん久しぶりー。近くまで来たから顔を見に来たぜ。ここんとこ忙しくて全然来れなくてさ」
「何だ、そうだったのかい」
あえてここに来た目的には触れずに話すと、女主人は安堵した様子で息を吐き苦笑する。
「何かあったのか?」
それとなくハイドが聞いてみると女主人は少し悩んだのち、肩を下ろして肯定した。
奥へ通され椅子に座って待っていると、テーブルに人数分の飲み物が置かれる。それぞれ礼を述べて紅茶を一口飲む。
傍から見ればただの談笑に見えるかもしれない。女主人の不安げな表情がなければ。