‡†ダブルローズ†‡

□第一章
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レッドローズに属し、最も人身売買が行われている街、パレス。

表立っては活気ある、だがどこか陰湿な空気が漂うその街に、ふらりと現れた人影が一つ。

淡い青の髪が風になびく。夜色の双眸は端整な顔立ちと相俟って、冷たい印象を与える。

動きやすそうな服に身を包んだ彼の腰には、繊細な装飾の施された一振りの剣。


「物騒な所だな」


馬上から街の様子を眺めて呟くその声は、少年のもの。一切の感情もなく、興味すらないような呟きを聞き届ける者はいない。





「あら、あなた旅人さん?」


人通りの多い、大通りの一角にある宿屋に足を踏み入れた。少年を出迎えたのは店主と思われる女だ。

出で立ちから旅人と言い当てられ、少年は端的に肯定した。


「滞在中の宿の手続きを頼む。それと馬を連れてるから預かってくれ」

「はい、承りました。じゃあここに名前を記入してくれる?」


笑顔で了解した女店主は、早速帳簿を取り出してペンと共に渡してくる。受け取った少年は帳簿に『Cain』と書き入れた。


「まだ日暮れまでに時間があるわ。少し街を見て回ってきたら? あなたが帰ってくるまでには部屋を用意しておくから」

「そうだな……」

「大丈夫。ここは栄えてるけど、こう見えて治安はいい方なの。旅人さんを見ていきなり襲ってくるような野蛮な人間はいないわ」


その後いくつか言葉を交わした旅人の少年、カインは宿屋を後にした。道行く人々の中に違和感なく溶け込むように歩を進めながら、小さく呟く。


「治安はいい方、ね」

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