‡†ダブルローズ†‡
□第一章
1ページ/12ページ
レッドローズに属し、最も人身売買が行われている街、パレス。
表立っては活気ある、だがどこか陰湿な空気が漂うその街に、ふらりと現れた人影が一つ。
淡い青の髪が風になびく。夜色の双眸は端整な顔立ちと相俟って、冷たい印象を与える。
動きやすそうな服に身を包んだ彼の腰には、繊細な装飾の施された一振りの剣。
「物騒な所だな」
馬上から街の様子を眺めて呟くその声は、少年のもの。一切の感情もなく、興味すらないような呟きを聞き届ける者はいない。
「あら、あなた旅人さん?」
人通りの多い、大通りの一角にある宿屋に足を踏み入れた。少年を出迎えたのは店主と思われる女だ。
出で立ちから旅人と言い当てられ、少年は端的に肯定した。
「滞在中の宿の手続きを頼む。それと馬を連れてるから預かってくれ」
「はい、承りました。じゃあここに名前を記入してくれる?」
笑顔で了解した女店主は、早速帳簿を取り出してペンと共に渡してくる。受け取った少年は帳簿に『Cain』と書き入れた。
「まだ日暮れまでに時間があるわ。少し街を見て回ってきたら? あなたが帰ってくるまでには部屋を用意しておくから」
「そうだな……」
「大丈夫。ここは栄えてるけど、こう見えて治安はいい方なの。旅人さんを見ていきなり襲ってくるような野蛮な人間はいないわ」
その後いくつか言葉を交わした旅人の少年、カインは宿屋を後にした。道行く人々の中に違和感なく溶け込むように歩を進めながら、小さく呟く。
「治安はいい方、ね」