外伝集
□素敵な一時を
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二月も半ばに入り、寒さは一段と増して雪が降る日も少なくはない。その日も外は一面白銀に覆われ、街を美しく覆っていた。
こんな日も守護者の仕事はなくならない。いつものように慌しく働くカインとレイティだが、二人は揃って疑問に思うことがあった。
「ったく、朝から何なんだ」
訝しげに眉根を寄せるカインのぶっきらぼうな声に、レイティも頷く。思い出すのは、朝から今までの出来事。
「あたしも何度か声かけられたけど、そのくせ誰も特に何も言わないのよね」
朝起きた時は特に何もなかった。ところがライティス邸で食事を開始した頃から、使用人たちがどこか落ち着きがない。
不思議に思いながらも出仕する間際になって、二人は家令から引き止められた。何かと思えば今日は真っ直ぐ帰ってきてくれと言われた。
それからレイティに何か言いたそうにしてはいたが何も言うことはなく、見送られたのだ。
何かあるのか。王城に向かう馬上でカインに聞いてはみたものの、彼自身も心当たりはないと言う。
急用でも入ったのだろうと割り切ることにして出仕したのだが、一気に疑問が膨れ上がるのはここからだった。
仕事中、城内を行き来するカインに声をかける者たち。それらは守護者たちで、いつも挨拶は交わすが今日はそれだけとは言えなかった。
立ち去ろうとしたカインを引き止めたかと思うと、何か言いたげに口ごもり、先を促すと結局何も言わずに見送られる。そんなことの繰り返しだ。
レイティもまた、アベルと補佐の仕事をしている最中、似たような体験をしていた。
「診察に行った時、キルも様子が変だったわよ? フェイクト長官はいつもと変わらなかったけど」
「ああ。他の奴らはとにかく、フェイクト様が何も言ってこないなら大したことじゃないんだろ」