外伝集
□交差しない視線
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あの時ほど恥ずかしい思いをしたことがない。
カイン=ライティスの補佐は後にそう言った。
――全ての元凶は、レイティと専属護衛の日課だった。
「レイティ! いい加減にしろー!」
「げっ、今日も来たわね」
仕事中、多忙で城内を走り回っているところへ例の如く怒鳴りながら一人の青年が追いかけてきた。頬のそばかすと、よく女と間違われる顔立ちが特徴的な青年は鬼の形相だ。
レイティとアベルは当然のように逃げ出す。この忙しい時に、説教が長い彼に捕まるわけにはいかない。
「レイ嬢ちゃん荷物貸せよ」
元々余分に荷物を持ってくれていたアベルが、レイティが抱えている調書やらの荷物を横から奪っていく。これでレイティは全力疾走できる。
結構な重量の荷物を抱えていても、アベルは余裕の表情で伴走して少しも遅れない。
後ろからは諦め悪くハイドが追いかけてくる。こうなったら最終手段且つ確実に振り切れる方法を使うしかない。
レイティはアベルに目配せすると、すぐさま方向転換する。向かうはパートナーの待つ資料室だ。