外伝集
□束の間の休息
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その日は雨が降っていた。空を覆う厚い雲のせいで辺りは薄暗い。
地面に打ち付ける雨音は激しさを増すばかり。こんな日は空気が湿気ている。
空を見ただけでは時間はわからないが、時計を見ると九時を回ったばかり。ライティス邸の主はパートナーと共にとっくに出仕して仕事をしているはずだが、この日ばかりは違った。
「ほら、ちゃんと寝てなさいよ」
「平気だと言ってるだろ」
屋敷の一室では、ずっとこんなやり取りがされていた。始業時間がとうに過ぎた今もだ。
今この部屋にいるのは二人。一人は屋敷の若い主、もう一人は深紅の長い髪が特徴的な少女だ。
パートナーをベッドへ寝かせようとするレイティと、そうはさせまいと避けるカイン。一見して異様な光景にも見えるが、これには深い理由があった。
「顔色悪いじゃない。フェイクト長官にも許可を貰ったんだから今日くらい休んでって、何度言わせる気よ」
「それはお前が勝手に連絡したからだろ。休む必要はないと、俺だって何度も言ったはずだぞ」
口を尖らせるレイティに対して、カインはうんざりした顔だ。しかし、その顔が青いのは隠しようがない。