外伝集

□記憶のない朝
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何でこうなった。

朝、レイティが目を覚ますとそこは自室ではなく、目の前に寝ている人物の部屋だった。

目を開けたすぐ前には黒い服。

手を伸ばすと適度に鍛えられた胸板に触れた。不思議に思い、恐る恐る顔を上げて絶句する。


「なっ……」


間近にある、端麗な顔。その距離の近さにレイティは目を大きく見開いた。

何故こうなった。

昨日はアベルも交えて三人でバーに行ったはずだ。

美味しいカクテルをご馳走されて……そこから先の記憶が曖昧だ。

その後何が起きたというのだ。

何がどうなったら、彼のベッドで、同衾なんてことになるのだろう。


「なに百面相してんだよ」


不意に降ってきた声に顔を上げると、閉じていた夜色の双眸が自分を見下ろしていた。

一瞬にして顔を青ざめさせたレイティは慌てて飛び起き、彼から距離を取る。


「な、なな何であたしがカインのベッドで寝てるのよ」

「……覚えてないのか?」


あまりの慌てように軽く目を見開いた彼は、次の瞬間には悪戯に口角を上げて不敵に笑んでいた。

その表情に更に焦りが募る。


「お、覚えてないって何のことよ」

「へえ」

「ちょっとその意味深な笑い方やめてよね! っ……!」


大声を上げたレイティは顔をしかめ、頭を押さえた。どう見ても二日酔いだ。

くつくつと喉の奥で笑いを噛み殺した彼は、ゆっくりと優雅な動きでレイティの腰を捕らえるとその耳元に唇を寄せた。

そこから囁かれた甘い声は、後にレイティの悩みの種となる。


「最高に面白かったぜ?」


顔を真っ青にしたレイティが真相を知るのは、この数時間後のこと――。


Fin.


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