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□なんとなしのかみさま
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死にたくない、と思った。
別に今まさに崖っぷちとか、人生最大のピンチに突っ立ってるわけじゃない。屋上の端に立ってるわけでもないし、暗転、ってわけでもない。うん。目は瞑ってるけど。
夢と現実を船を漕ぎつつ行ったり来たりだ。ちなみに今は、眠くなることで定評のある現代文の授業中。閑かすぎるね。あーねむい。
私もがり勉や超人ではなく現代文が好きというわけでもないから、大半と同じように机とこんにちはおやすみなさいをしていた、そして冒頭。私は思った。それだけははっきりと鮮明に。
…死にたくないと思った。
唐突に、漠然と。
よくわからない、とりあえず不安と思われるもやもやがあることは確かで。
それは消えそうになくて、なんとなく、泣きたくなって。
「……死にたくないよ」
小さく声に出してみた。
さながら、アニメのワンシーンのように。
先生の声に掻き消されて、きっとみんなには聞こえてない。
(誰にも、きっと)
「苗字さん?」
「!」
思わず閉じていた瞼を開いた。少し身体も強張った所為か、ガタンッと机が音をたてた。誰かの睡眠の邪魔をしてたら申し訳ないな。謝るよ、心の中で。
「……」
「…大丈夫?」
静かで小さな一定の声。優しくて、好きな音だと思った。
覚えるの苦手だから、誰の声かはわからない。前の席って、誰だっけ…。
「(たしか、双子の…)」
目を閉じて、顔を思い浮かべる。ぼんやりとしてて、よく見えない。…ああ、頭が重い。……きもちいい、け、ど。
「………っ!」
またも目を開く。
あ、あたまなでられてるんですが……っ
優しく、暖かく、心音に合わせるみたいに。
ぽふ、ぽふ、ぽふ、ぽふ。
あやされるようなリズムに、少し恥ずかしくなって身動いだ。
照れ隠しにちらりと視線だけ向ければ、目が合う。あ。そうだ、思い出した。
「(……お兄ちゃんの方だ。たしか、)」
「…起きて」
「(名前は…ゆう、)」
「……苗字さん」
「…」
「……生きて、ね」
「……っ」
優しい微笑み。
暖かい手のひら。
君は私の何も知らないはずなのにな。さっきのたった一言の呟きに、何を思って何を感じてそんな、全てを許すようなああ君は神様だったのか。しらなんだ、あ、う。
「……っっ」
涙腺が崩壊しかけたから、私は逃げるように腕の中に顔を埋めた。腕が少し濡れてきた。カッコ悪い。それでも泣いた。安心したから。
…ただ私は、許されたかっただけなんだ。
願われたかっただけなんだ。
ちっぽけな私の生を、ただただ誰かにわかってほしくてでも伝え方が泣き方がわからなくて怖くて寂しくてただ、ただ、ただ。
「(…浅羽、悠太)」
思い出したよ、君の名前。
明日学校に来たら、おはよって挨拶しよう。返してくれるかな。大丈夫、きっと。
私の中にも君は生きてるって、伝えることは出来るかな。
とりあえず今は君の暖かい手のひらに誘われて夢の旅を。
なんとなしな恐怖と、身近なかみさま
(まだ死にたくないんだよ、だから、まだ今は生きててもいいかい?)
唐突に死を恐怖することがあったりなかったり。
たぶん前の授業でとんでもない失敗をやらかして友達に迷惑かけてへこんでるとかそんなとこ。を、略しすぎた。