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□パロディ!7
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(要夢)

魔法なんて使わなくても。





T.魔法使い





「だからー!お願い!じゃないとバラすよ!」

「・・・お前なぁ・・・」


目の前の女はしつこく言ってくる。

なんでも好きな男を魔法で振り向かせてくれ・・・って。


「オレは、この人間の世界に来たときから、魔法は使わないことにしてんだよ」

「さっき使ってた。だからあたしにバレたんじゃない!」

「うっ」


そう。
ことの発端を言ってしまえば、オレが決めたにもかかわらず魔法を使ったことが原因だ。

いきなりぶわっと水が頭の上からまかれて、そのあまりの量に咄嗟に使ってしまった魔法。


・・・まぁ、オレがこっちに来てまだ一ヶ月もたっていないという未熟さからの失態だ。


「・・・ちっ」

「舌打ちしない!」

「・・・んだよ。っつーかよー。そんなことしたって、虚しいだけじゃねぇの?」

「・・・」


言えば女は俯いた。

それから小さい声で聞いてきた。


「・・・名前は?」

「あ?・・・要、だけど?」

「要はさ・・・魔界に帰ったり、するの?」

「・・・まぁ、飽きたら帰るかも、な」


答えると女は唇を噛んでまた騒ぎ出す。


「じゃあなおさら!なおさら、今すぐ魔法使って!あたしの好きな人をあたしに振り向かせて!」

「だぁ!?だからな!そんなことしたって・・・」

「だって振り向いてもらわないと、一生会えなくなっちゃうかもしれないの!!」

「・・・は?」


叫ぶように言う女は、顔が真っ赤だ。


「・・・そいつ、遠くにいくのか?」

「!?」


聞けばかなり驚いたような顔。
それから呆れたような顔。


「・・・んだよその顔は。」

「・・・もういいよ!!」


ふんっと顔を逸らして、女は去っていく。
・・・というか、目の前の家に入っていった。


「・・・って!!」


目の前の家。
それはオレに水をぶちまけたやつの住む家で・・・。

そういえば、オレが魔法使ったとき、あいつ窓から顔出してたかも・・・。


「・・・っオイ!!」


オレは家に向かって怒鳴った。

魔法使いだってばれたのは、元をたどればお前じゃねぇか!!

そう腹が立ったから。


「オィ!女!出て来い!」

「うるさいよ!」


叫べばあの窓から女が出てきた。
さっきは威勢のいいポニーテールだったのに、今は髪をおろして・・・。


「・・・!」

「・・・あのさー!」


あることに気づいたオレ。
女は話出した。


「最近、見かけない人がこの辺歩いてるなぁって、ずっとここから見てたんだよね!」

「・・・」

「その人は、たま〜に可笑しな動きするの。がり勉っぽくて、黒髪にメガネなのに」

「誰ががり勉だ」

「まじめそうなのに、変な動きするの。でも途中で、はっとした顔をして、やめるの。・・・なんなんだろうって興味があって」

「・・・」


ここ最近、よくこの道を通っていた。
たまに誰もいないことをいいことに、魔法を使いそうになっていた。
周りの家を見ると、一つだけ窓が開いていて、そこから顔を出してる女がいたんだ。
だから、はっとして魔法を使うのをとめて・・・。


「興味があって、でも声はかけられなくて。そしたらたまたま、花に水やってるところにその人が通った」

「・・・」

「その人は魔法使いだった」

「・・・」

「ますます興味が沸いた。近づけば、なんだろう・・・。ドキドキした。好奇心かもしれない。でも・・・」

「・・・」


女は顔を俯かせて言った。


「好きなのかもしれない。だからずっと、気になってたのかも」

「・・・」

「あたしはただの人間だから。その人は魔法使いだから。いつか、その人が魔界に帰ってしまったら・・・」

「・・・」

「だから、魔法をかけて、あたしに振り向かせて、ずっとこの道を通ってほしかった」

「・・・」


泣き出しそうな声が、耳に付いた。

オレは大きく息を吐く。


「・・・」

「・・・」


右の指を、パチンと鳴らした。


「っ!?な、なに!?」


ふわっと、女の身体は浮かび上がった。
そのままゆっくり、オレの元に。


「・・・」

「・・・」


腕を広げて、お姫様抱っこってやつをする。
とたん魔法は消えて、女の重みが腕に掛かった。


「・・・」

「・・・」


もう一度、女を降ろしてからパチンと鳴らす。


「・・・」

「・・・」


浮かんだのは、いつもの道。

いつも通る道。


《っ!要!!》

《あー・・・よお》


窓から身を乗り出す女に、オレが手を上げて照れながら答えてる姿だ。


その手には、二人とも同じ指輪。


「・・・」

「・・・」


隣にいる女の顔は、驚きに満ちている。
オレは指を鳴らして、映像を消した。


「・・・ある未来だ」

「・・・」

「・・・もしかしたら、あの未来のとおりになるかもしれないぜ?」


オレが照れたように言えば、女はゆっくりと首にかけてあるチェーンを胸元から引き抜いた。
そこには二つの指輪が釣り下がっている。


「・・・これ、あげる」

「・・・」


女は差し出す。


「・・・あの未来のために、ね!」

「・・・あぁ」










見えた未来。

遠い約束。

それがこの魔法使いさんがくれた。

たった一つの‘マホウ’だった。




 
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