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□パロディ!7
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(春夢)

飛んでいくの?





Y.天使





「「あ」」


着地したところに、一人の女の子。
目を見開き、驚いているよう。


「・・・」

「・・・えっと・・・」


すぐに羽を仕舞って、視線を足元に向かせた。


ば、バレた・・・よね?

ボクが天使だってこと。


「・・・」

「・・・飛んでいたの?」

「え?・・・あ・・・えっと・・・」


彼女は静かに聞いてきた。
ボクは突然のことで慌てる。


もっと騒がれるかと思ったけど、彼女はにこっと笑った。


「・・・天使様?」

「・・・はい・・・」

「・・・素敵」


微笑む彼女は、儚かった。


「・・・天使様に、名前ってありますか?」

「・・・ボクは、春っていいます」

「・・・天使様らしい名前ですね」


ベンチに座ったボクと、その女の子はそんな話をした。
彼女はやわらかく笑う。


「春・・・さんは、やっぱり天使様なんですよね?」

「えぇ・・・あの・・・」

「大丈夫ですよ。私は、誰にも言ったりしませんから」

「あ、どうも」


一応口止めをと思っていると、彼女はそう答えた。
それからボクじゃなくて、空をみて言った。


「ねぇ」

「はい」

「飛ぶって、どんな感じ?」

「・・・飛ぶ・・・ですか?」

「うん」


彼女は空を見たまま、そう聞いてきた。


「・・・飛ぶのは、気持ちがいいです」

「・・・」

「風さんと、一緒になれる気がします」

「・・・」

「鳥さんは可愛いですよね。一緒に、歌を歌ったりします」

「・・・」

「・・・楽しくて、気持ちがいいです」

「・・・そう」


彼女は今だ、空を見つめる。


「・・・寂しくは、ないのね」

「・・・はい」

「ねぇ・・・」

「はい?」

「・・・天国って、どんな感じ?」

「・・・」


こちらに向いた視線が、なんだか切ない。


「・・・」

「・・・天国は、どんな感じなの?」

「・・・とても、いいところですよ」

「・・・そっか」

「・・・?」


コテン・・・と、彼女の頭が肩に乗った。


「・・・暖かい。なんか・・・陽だまりみたい」

「・・・」

「春さんは、陽だまりみたいね」

「・・・そうですかね・・・」

「うん・・・天国は、こんな感じなのね」


ボクの肩に頭を乗せて、目をつぶりながら彼女は言った。


「・・・風さんや小鳥さんも、こんなふうに暖かいのね・・・」

「・・・」

「空を飛ぶって、こんな感じなのかしら?」

「・・・」


彼女の言葉に、ボクはきっとそうですよと、心でしか答えることができなかった。


「・・・」


ピロロロ・・・


鳥のさえずりが、響いた。

また一人、天国へ上る死者がいるのだ。


「・・・ボク、行ってきます」

「・・・行ってきますっていうのは、帰ってくるって約束なのよ」


ボクが立ち上がると、彼女は泣きそうな目でそう言った。


「・・・」


泣きそうな目が、悲しくて。
だからボクは、答えていた。


「また、来ますから」

「・・・」

「だから、行ってきます」

「・・・そう」


俯いた彼女。
右手を小さく上げた。


「いってらっしゃい」


風が吹いた。
ボクは風さんと一緒に、空に向かって飛んだ。

・・・それは懐かしい心地がして、気持ちよかった。










スケッチブックに書かれているのは、陽に照らされた彼。

前に一度、このベンチに座りながら書いたのだ。

あの天使様が降り立った場所。

そこに立っていた彼が、儚く美しくて。


「・・・」


スッ・・・と、シャーペンを走らせた。
彼の背中に、羽を描く。


「春・・・」


大きな真っ白いその羽が、より儚さを。
より、美しさを。

それから、陽だまりを与えてくれた。


「・・・春・・・・・・天使様・・・」


飛び去った天使様の羽が、数枚空を舞っている。

一枚が広げたスケッチブックの、今描かれた羽の上にそっと乗った。











・・・飛んでいった彼。

また、舞い降りて来ると、信じてる。



 
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