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□パロディ!7
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(あきら夢)
住み付きたければ、住み付けばいいでしょ。
X.座敷童
「ということで、ボクのこと、住まわせてほしいな!」
「・・・」
寄ったのはとあるマンションの一室。
目の前には知らない女の人。
でもボクはここに住まなくちゃならない。
なぜって?
だってボク家がないんだもん!
「・・・えっと・・・」
「なーに?」
「・・・警察、行く?」
「やっだなー!警察なんて行かないよ。なんでー?」
「いや・・・なんでって・・・」
彼女はすごく胡散臭そうにボクを見てる。
だからボクはもう一度説明してあげた。
「だからねー?前の家を追い出されちゃったから、次にボクを求める人の家に飛ばされちゃったわけ。それで着いたのがここなんだけど」
「・・・」
「ボクは座敷童でーす!!」
「・・・」
言ってもまだ胡散臭そう。
・・・じゃぁもう一つ。
「警察に連れて行ってくれても構わないけど、警察の人たちには、ボクは見えないよ?」
「え?」
「ボクは、その家の人にしか見えないの!なんたって座敷童ですから!」
「・・・」
少し困惑して、それでもボクを中には入れてくれないみたい。
もー!用心深いなー!
と、彼女の横の部屋のドアが開いた。
「あ、すいません。この人、あなたの知り合いだったりしますか?」
「・・・は?」
彼女が隣人に声をかけると、怪訝な顔をされた。
彼女はうろたえてからもう一度、ボクを指差して言った。
「この人。なんか自称座敷童らしいんですよ」
「自称じゃないの!ホントにボクは座敷童なんだよ?」
「・・・・・・なんのことかさっぱり・・・あの、一人芝居は、やめたほうがいいと思いますよ」
「へ?」
「じゃ、失礼します」
隣人は早く去りたいのが分かるほど、早足で去っていった。
残されたボクと彼女。
ボクはにんまりと笑った。
「言ったでしょー?家の人にしか見えないんだよ?」
「・・・・・・そう、みたいね」
彼女は頭を抱えてボクに言った。
「入れば?・・・仕方ないから今晩は入れてあげる」
「わーい!」
やっとのことで、ボクは家に入ることができた。
・・・これからこの女の人の仕事を、大成功させてあげるんだからね!!
「おかえり!」
「・・・ただいま」
数日過ぎて分かったこと。
「今日の夕飯は?ボクはトマトのカレーがいいんだけど」
「自分でそれくらいやってなさいよ!もう12時すぎてるじゃない!!」
彼女は怒りっぽい。
それから仕事が忙しい。
帰りはいつも11時過ぎる。
前に朝の4時ごろに帰ってきたことがある。
そのあと仕事に向かったのは8時だった。
「・・・あたしに付き合って遅くまで我慢することないんだからね。お腹すいてるんでしょ?」
「うん」
「・・・お腹すいたら先食べちゃいなよ。眠かったら先寝ちゃっていいし。・・・我慢は体に悪いよ」
・・・それと。
怒りっぽいけど、実は優しい。
なんだかんだで結局ボクはこの家に長いこといるわけだし。
「別に君のために待ってたんじゃないよ。ただボクが待ちたいって思ったから待ってただけ」
「っ!!」
「自惚れないでよねー」
フフンと言ってやると、顔が赤い。
・・・最近多いな。
少し待つと、ボクのリクエスト通りのトマトカレー。
「あ、あんたのリクエストだからってワケじゃなくて。たまたま具材があったから!」
「ふーん・・・」
「・・・あきらって、何歳なの?」
「へ?なに?ボクのこと気になるの?」
「そんなんじゃなくて!」
「顔真っ赤だよ?」
「〜〜〜!!・・・違くて。座敷童って、普通5・6歳の子供じゃない?・・・あんたって見るからに」
「ボクはもう成人超えてるよ」
「・・・・・・」
「明日はハンバーグがいいな!」
「・・・」
他愛のない会話。
でもそれが結構楽しいかもしれない。
・・・実際、座敷童が見える人なんて、ホントは極稀なんだよね。
しかも話せる人はその中でも数が少ない。
「・・・」
「・・・な、なに?!」
じっと見れば、顔を赤くする彼女。
・・・ツッケンドンだけど、結構可愛いよね。
「なんでもないよ」
「・・・あきらって商売繁盛とかとは無縁そうだよね」
「なに?そんなに金がほしいわけ?金の亡者でも目指してるの?」
「だから違う!!」
一々怒鳴ってくるのが、うるさいけど心地よくなりつつあるんだ・・・。
ご飯が終わってボクはリビングでくつろぐ。
後ろから手伝ってって声がするけど、ボクお皿洗いなんてできないもん!
そうしてると水の音が止まって、足音がリビングを抜けようとする。
「もう寝るの?」
「っ!・・・うん」
「おやすみ」
「・・・・・・おや、すみ」
分かったことの追記。
彼女は挨拶をあまりしないんだよね。
いつも寝るときもささっとリビングを抜けていこうとする。
だからボクがいつも引き止めて、声をかける。
・・・嬉しそうな顔してるの、自分で気づいてるのかな?
「ふふ」
ボクは知らずに笑った。
ボクももらった部屋があるから、そっちに移動した。
「・・・」
彼女の部屋から、小さく明かりが漏れていた。
「・・・なにやってんの・・・寝るんじゃなかったの?」
そう言いながら、ドアを開ける。
「・・・寝てる」
机に伏して。
「あーもう。仕事しながら寝ちゃう?寝るならベッドで寝なさいよね」
文句を言っても、彼女は熟睡してた。
仕事であろう書類を見る。
「・・・」
ボクには分からないけど。
難しいんだろうな。
「・・・う・・・ん・・・」
彼女が身じろいだ。
多分寝苦しいんだと思う。
「しょーがないなー・・・」
ボクは彼女を抱えあげて、ベッドに運んだ。
タオルケットをかけて、軽く冷房を入れてあげる。
「・・・おやすみ」
寝顔を見てたら、ついね。
おでこにチュッと、キスをした。
朝になれば、ドタンバタン音がした。
そのまま玄関に向かうであろう足音。
ボクはすばやく部屋から出た。
「いってらっしゃい!」
「っ!」
玄関が閉まる直前だった。
彼女が軽く目を見張って、それから。
「昨日ありがとう!行ってくるね!」
笑ってそう答えた。
・・・なんか今日は、手伝ってあげたくなるなぁ。
そんなこんなで、ボクは夕飯を作ることにした。
買い物はできないから、あるもので。
「・・・」
ハンバーグできる。
材料が、あるんだもん。
見ればボクが注文しそうな料理の材料ばかり。
・・・たった数日で、ボクにこんなに気使ってくれたんだ。
「よっし!」
ボクは気合を入れて、作りにかかった。
「ただいまー!」
「!!」
彼女の声がした。
ボクは軽く慌てる。
即座にリビングを抜けて、玄関前に行った。
「お、おかえり!」
「・・・エプロン?」
「!!」
彼女はすぐにそれに気づいたみたいだ。
更に慌てるボク。
「ちょ、ちょっと興味があって・・・」
「・・・」
「あ!」
ボクを無視して、リビングに入っていった。
入ったとたんに、臭う焦げ。
「・・・」
キッチンに入っていく彼女。
見れば、焦げ焦げの炭とかしたハンバーグだったもの。
「・・・」
「・・・夕飯作ってくれようとしたの?」
「・・・!べつに!」
そっぽを向けば、彼女はボクを見ながら困ったような顔をした。
・・・ボクってホント、何もできないなぁ。
前の家でも、商売繁盛なんてさせてあげられなかった。
それどころか、唯一ボクが見えてた息子はボクに言った。
《お前がいるから、父さんの会社はつぶれたんだ!》
・・・あんなによくしてくれた彼女に、ボクはなにも返せない。
「・・・ねぇ」
「・・・なに?」
彼女に声をかけた。
「いらないって、ボクをいらないって、強く願って」
「・・・」
「そしたら、ボクはまたどこかに飛ばされるから」
「・・・」
彼女はうーんと、考えるようなしぐさをした。
「・・・願ってよ!ボクは君になにも返せないんだ!だから・・・この家にいたくない!!」
「・・・えー・・・」
「!」
言うとボクの気迫にはそぐわない、けだるそうな声。
驚いて顔を上げる。
「・・・おかえりって・・・言われたの初めてだったんだよね」
「・・・」
彼女は悲しそうに笑ってた。
「うち両親とも共働きで、家に帰っても誰もいなかったからさ」
「・・・」
「いってらっしゃいとただいまが、嬉しかった。おやすみって、言われるだけで安心したんだよ」
「・・・」
「まぁその所為で、睡魔が襲ってきて仕事手につかなかったんだけど!」
「・・・」
「・・・・・・消えないで」
「・・・」
「・・・ここにいて。あたし・・・もう一人は嫌だな」
「・・・」
「あきらが、必要。あきらのこと、好きになっちゃったんだもん」
「!」
「・・・好きな人に、いってらっしゃいって言われるの、すっごい幸せなんだもん」
「・・・」
「・・・ここにいてよ」
彼女が俯いて、泣き出した。
今更だけど、彼女はボクより年下なんだよね。
なのにずっと、年上みたいに気が張ってた。
「・・・ここにいてって言うなら、ボクはここにいるよ」
「!」
言えば、泣いた瞳がボクを見上げる。
好き・・・かも?
「・・・だから泣かないの!」
「・・・子ども扱いしないで!」
「ボクより年下でしょ?」
「・・・精神年齢はあたしの方が年上!」
「今は泣いていいから!」
「・・・」
手を頭に乗せてぽんぽんと撫でてあげれば、また涙が溢れていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・ボク、ここにいていいんだよね?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・住みたければ、住めばいいでしょ!」
「・・・・・・商売繁盛のために、ボクをここに残すの?」
「・・・違う!!」
ただ、あなたの傍に居たいから。
・・・そんなこと、言わせないでよね!