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□パロディ!7
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(祐希夢)

凍ってしまえばいいんだよ。





W.雪男





オレの行くとこは、大抵がすぐに冷え冷えとしていってしまう。
なんたってオレは雪男だからね。
それを隠す気も毛頭ないし、だから避けたいって言うのなら避ければいい。


「・・・」


心まで冷たいって、よく言われる。


「それで明後日さー」

「・・・」

「あ、祐希」


兄である悠太(悠太は人間・・・のはず)と話してるのは、オレの好きな人。

・・・兄に嫉妬するって、やっぱり心が冷たいのかもしれない。(というか狭いのか・・・)


「祐希は、明後日の宿泊学習でレクリエーションなにがしたい?」

「・・・」


宿泊学習なんてあるんだっけ?


いやだな・・・


だって、ほかの男とも一緒に泊まるってことでしょ。


・・・嫉妬で耐えられないよ。


「ねぇ・・・」

「え?って、ちょっと!!」


オレは彼女の腕を引いて教室を出た。
とりあえず空き教室にでもと、足を動かす。


「どうしたの?悠太にいろいろ聞かなくちゃいけないんだけど。あと、要も春も・・・」

「・・・」


口から出てくるのは、ずっと一緒にいた幼馴染。
だけど幼馴染以前に、男なわけ。


「・・・」

「・・・」


空き教室に入って、扉を閉める。
張り巡らせる、冷気。


「・・・祐希・・・寒いよ」

「・・・」


身体を震わせながらも、立ち止まっている彼女。

知ってる。

彼女はオレのことを怖がらない。
幼馴染の誰もがそうなんだけど。

それから、しっかりしてるっていうか・・・。
ちゃんと、人を見てる。

それでちゃんと問題は解決しようとする。

教室を出て行かないのは、オレが怒ってることを気づいているからだろう。
オレを、落ち着かせるためだろう。


「・・・」

「・・・どうしたの?」


心配そうに見てくる目が、無性に腹立つ。

オレは彼女に近づいて、ぎゅっと抱きしめた。


「ねぇ・・・」

「・・・」

「・・・どうしたの?甘えたいの?」


くすくす笑う彼女に、少し拍子抜け。

だって、オレの身体ってすごく冷たいわけ。

触ったら低温火傷になっちゃうんじゃないかってくらい。

なのに・・・


「もう・・・」


あろうことか、抱きしめ返した。


「・・・」

「・・・」

「・・・ねぇ」

「・・・なに?」


抱きしめ返してきた彼女の身体が、震えだした。


「・・・凍っちゃうよ?」

「凍ってみようか?」


彼女は薄ら笑い。


「凍ってしまえば、ずっと祐希だけのものになるかもね」

「・・・」


彼女はそういうと、いっそう腕に力を込めた。


人間の体温が、徐々に失われていく。


この教室は、もう北極くらいに寒いと思う。

そんななか夏服で立つ彼女。

必死にオレに腕を回している。


・・・体温が、少しずつ下がっていく。


「・・・」


オレはゆっくり離れた。


「・・・ん?」

「凍ったら・・・」


挑発的な目。
ちょっと悔しい。


「凍ったら、もう抱きしめ返してもらえないじゃないですか」


俯いたオレは、静かに冷気を収めた。
真っ青な彼女の顔が、見れない。


凍ってオレだけのものになるって、夢みたいだけど。

凍ってしまったら、誰がオレを暖めてくれるの?


「・・・祐希」

「・・・」


震える彼女がオレに触れた。
即座に離れようとするオレ。
でも、腕を掴まれて逃げられなかったオレ。

逃がさなかった彼女。


「・・・」

「え・・・」


驚いた。
抱きしめてきた。

誰が?誰を?


彼女が・・・オレを・・・


「祐希は熱いね」

「は?」

「祐希は熱いよ」

「・・・」


なんですか、それは。

体はガタガタと震えている。
顔は真っ青。なのにオレが熱いって。


「・・・」

「・・・オレは、冷たいよ。身も心も、冷たいよ」

「・・・体は冷たいっす」


口調を変え、鼻をすすった彼女は、オレから離れた。

でも、と彼女は手が届く位置でオレに言う。


「でもさ、心は、冷たくなんかないよ」

「・・・」

「熱い熱い。だって」

「・・・」

「さっきのは嫉妬の炎でしょ?」

「・・・」


胸に燃やした、嫉妬の炎。


「熱い熱い。熱かったり寒かったり、忙しいな」

「・・・」

「でもそんな祐希が好きなんだよ」

「・・・」

「・・・」


彼女は真っ青な顔で、でも極上の笑みだった。










熱い男も、冷たい男も。
あなたならどんなでも。

燃やされて、凍らされて。

結局はあなただけしか、見えなくなるのだから・・・。



 
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