short

□パロディ!7
2ページ/7ページ

(悠太夢)

あなたの血も甘いのかしら?





U.吸血鬼





「やばい・・・」

「どしたい?」


弟の祐希に心配されながらも、オレは適当にごまかしてその場を去った。
弟にもいえない。

実際は弟じゃない。

オレは吸血鬼だから。


「・・・お腹減ったなぁ・・・」


ぼそっと呟いた。

吸血鬼のご飯は血だから。

ここ最近誰も襲ってないし。

・・・あんまり襲うのとか、好きじゃないし。

オレは人間が結構好きだ。
オレも人間として生きたいと思ってる。

日光も、ニンニクも、十字架も必死になって克服した。

でもどうも血という食料だけは変えられなかった。


「・・・今夜、かな・・・」


夜、家を抜け出してその辺の人から少し血をもらおう。
知らない人なら、大した騒ぎには・・・なるけど、オレは無関係を装えるし。


「・・・」

「あ、浅羽君!」

「・・・あ」


目の前に現れたのは、クラスメイト兼オレの好きな人。


・・・非常にまずいです。


今は裏庭にいて、人影はそこにはひとつもない。(だって襲わないようにあえてそういうとこを選んだから)
オレは飢え死に寸前。
そこに好きな人、だ。


・・・いやね、思春期の男だからとかって意味じゃなくてね。


吸血鬼は本能で、好きな人の血を欲しがってしまうんだ。
たぶん、人間の性的欲求に似てるんだろうけど。


「・・・」


ごくりと、固唾を飲んでしまう。
早く離れてくれないかな。


「今日の5時間目、夏休みの宿泊行事についてなんだけどね。一応この時間からある程度の希望を聞いておこうって委員長が言ってたの。あたしは浅羽君に聞きに来たんだけど・・・っていうか、大丈夫?」

「え?」

「・・・顔色、すごく悪いよ」

「!」


スッと手が伸びてきた。
手が、頬に触れる。


触 れ た。


「・・・」

「んー・・・ベンチでやすもうか。そこで休みながらでいいから、聞いてくれるかな?」


答えないオレになにも気にせず、手を引かれベンチに座る。


「・・・」

「・・・」

「大丈夫?」

「・・・」


だめ。

今話すとたぶん、鋭くなった牙が君の肌を切り裂くから。


「・・・うーん」

「・・・」

「・・・ね、ね!」


彼女はなにを思ったか、両手を広げた。
顔を見て、首を傾げる。
と、彼女は。


「はい、ぎゅぅぅううう!」

「!?」


あろうことか抱きしめてきた。

そういえば彼女は過度のスキンシップがあるんだっけ?

クラスでも結構、天然だって騒がれてた。


・・・やばい。


彼女はあやすようにオレの頭を片手で抱えて、背中をさすってきた。
頭を、首元に押し付けられる。


「大丈夫だよー。落ち着いてねー」


子供にするみたいに、軽く手をポンポンと叩いてくる。

頭も同じように。
だから、彼女の匂いが鼻を掠めて。


「・・・ごめん」

「え?」


言ったときには遅かった。

ぐっと腕に力を込めて、彼女から身体を一瞬離す。
すぐに首元に顔をうずめて、牙を立てた。


「っ・・・!!!!」


彼女から声はない。


「・・・んっ」


血が、ふわっとオレの口の中に広がった。


・・・甘、い・・・


「・・・」

「あ、浅羽、くん?」


ペロッと最後に唇を舌でぬぐって、顔を離した。
首元から血を流す彼女は、虚ろにオレを見上げた。


「・・・ねぇ」

「・・・なに?」

「・・・オレのこと、好き、なの?」

「!?」


彼女の目が僅かに開いた。

あぁ、確定。

そんで、結構嬉しいオレ。


「血が、甘かった」

「・・・?」

「・・・血はもともと、甘いんだけど。・・・君のは更に甘かった」


オレの言いたいことが分かってないだろう彼女は、虚ろに首を傾げる。


「・・・吸血鬼に恋してる人間の血は、その吸血鬼の舌には甘く感じるの」

「・・・」

「すっごく、甘かった。オレのこと、好き?」

「・・・」


ちょっと自意識過剰みたいで嫌だけど、まぁそういうもんだし。

彼女は小さくうなずいた。


「・・・それから、吸血鬼が恋した人間の血は、その吸血鬼を一生虜にする・・・って言われてる」

「・・・」

「・・・オレは、君が好き」

「・・・」


彼女が虚ろにも、笑った。

オレも僅かに笑みを向ける。


「・・・一生、オレといてくれない?」

「・・・」


プロポーズ。

なんていうか。

恥ずかしいけど。


チュッとリップ音とともに、オレは我に返った。


彼女がゆっくり離れる。

オレの首元には、赤いしるし。

それから、軽い歯形。


「・・・」

「・・・悠太くんの血も、甘いのかな」


彼女は言った。










知りたいな。

あなたがあたしに恋してるって言う、恋の味を・・・。



 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ