飛行少女

□01.意味のない数字
1ページ/12ページ


「由衣川(ゆいかわ)、遅いぞー」


 僕はすみませんと小さく言って席についた。
 数学の授業は始まっていた。ノートや教科書を引っ張り出す。

 ふと頬のあたりに視線を感じた。
 隣の席の女子―――宮園が笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「な、なに?」
「由衣川、ずいぶん遅かったわね。どこに行っていたの?」
 先生が黒板に放物線を描いているのを確認する。
「……屋上だけど」

「屋上にいた、というのはどういう意味かしら。屋上という場所は何を表しているの? また『屋上にいた』とは、どんな心理上のメタファーなのかしら?」

 宮園と知り合ったのはつい2ヶ月前のことだ。
 僕らはなるべくして2年生になり、たまたま同じクラスになり、何の因果か隣の席になった。
 まだ付き合いは浅いが、彼女がかなりこみいった世界に住んでいることは、会話の節々から感じとれる。

 ―――僕はこの女と話していると頭が痛くなる。

 ノートに板書を写す。
 放物線の最大値は17。17はどこまで行っても17だ。九九にも登場しない、ありふれた素数。
 その数字以上の意味なんて、ない。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ