書庫(短編)

□うたかたの夢殿
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「これ、夢…?」
 妹子は見慣れた太子の青いジャージの後姿を半ば呆然としながら眺めていた。
(何で太子がここに?てかここどこ!?)
 太子の独り言が聞こえてくる。
「またケツ妹子が…」
 沸々と怒りが込み上げた。
 音も無く太子に歩み寄ると太子の後頭部を思いっ切り引っ叩いた。


「おあまあぁぁぁ!?」
太子は勢いよく振り返った。誰かは分かっている。こんな事をするのは唯一人。
「妹子!!」
見上げれば、眦を吊り上げた妹子が拳を握り、太子を見下ろしていた。
 妹子は嘆息しながら言った。
「アンタは夢の中でもクローバー摘んでんですか?僕の夢にまで出てきて。主上が嘆かれます」
「これは私の夢でおま!夢でも摂政に手を上げるとは!明日からノーパンで過ごせ!」
「やりませんよ!てか人にノーパン主義強要させんな!!」
 妹子はそこで口を噤んだ。太子と喋っていると訳が解らなくなってペースに呑まれる。
「そんなに反抗的だとこうしてやる!妹子と入れ替われ!!」
 妹子は絶句した。太子が言った事が理解できなかった。確か入れ替わるとか何とか…。
 妹子の表情が引き攣った。太子がにっと笑う。
「アンタ、何て事言って……!?」
 唐突に目の前で閃光が弾けた。白い光が目を灼く。眩しさに目を瞑る。

 光が鎮まり瞼を開くと赤いジャージが目に入った。妹子は自分を見下ろした。青いジャージが目に映る。目を疑った。
 どうしようもなく狼狽えたその時太子の勝ち誇ったような笑い声が聞こえた。
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