書庫(短編)
□十七文字
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松尾芭蕉は泣いていた。唯一無二の親友マーフィー君を抱きかかえさめざめと泣きながら歩いていた。
何故この様になったのかは、半刻ほど前に遡る…。
芭蕉はまたスランプのダメ句を作った。
ダメさ加減はこれまでにも増して酷く、季語ナシ・字余り・センスナシの正に三拍子揃ったある意味凄い俳句だ。
それを自慢げに弟子の曽良に見せたのだ。
曽良は見た瞬間にそれを破り捨てた。
「何で破くの!?松尾の傑作だよ!?略して松作!」
「五・七・五にすらなっていない句で大それた事を言わないでください。断罪しますよ」
そう言う前にすでに芭蕉の右頬には拳の形をした殴打の痕がついている。
「じゃあ、じゃあ曽良君もなんか俳句作ってよ」
「しょうがないですね、分かりました」
あの後、散々曽良に断罪され冒頭に至る。
後におくのほそ道に松島での句が無いのはきっと余りにもスランプでこの鬼弟子に破り捨てられたからなのではないのだろうか。