神宮寺レン
□君ガ初メテ
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「私ばかりドキドキしてます……」
練習を終えてソファで抱き寄せると、春歌が胸に顔を埋めながら呟いた。
「そうかい? 俺の心臓はドキドキしてない?」
「……して……ます」
尚も困った顔をする春歌に、神宮寺はクスリと笑った。
「ハニー? どうしたの?」
「えと……その……」
言いにくそうに口ごもる彼女の背中を押すように、神宮寺は額にキスをして髪を撫でた。
「……私といてつまらなくないですか……?」
俯きながら告げられた言葉に、神宮寺は眉を潜めた。
「急にどうして……」
そう問いかけながら、ふと先日のライヴでのことを思い出す。
神宮寺は、デビューが決まってから小さなライヴ会場で何度か歌わせて貰えるようになり、彼女も作曲の仕事が詰まってない限りは必ず見に行っていた。
ここ最近のライヴの後、真っ先に彼女に駆け寄ると、不安げな瞳で会場を見つめる姿を見つけた。
その時、彼女は"すごいなぁって感動してました"と答えた。
何だかスッキリしなかったが、神宮寺はライヴの高揚感もあり深く疑わなかった。
「やっぱり何かあった?」
不安は全て取り除いてあげたい。
それが自分の関わることであるなら尚更だ。
「私……特別じゃないから……飽きちゃうのではないかと……」
春歌と神宮寺が恋仲というのは内緒だから当然なのだろうが……スタッフが春歌の側で談笑をしていたらしい。
"綺麗で、神宮寺家位の家柄で、尚且つ、あの色気に負けない人じゃないと釣り合わない"
という話題で盛り上がっていたらしい。
「すみません……」
こんなことで悩んで困らせてごめんなさい……。
そう言って涙を溢した春歌に、神宮寺は溜め息を吐いた。
苦笑を浮かべながら。
「ねぇ、ハニー……」
気付いてないの……?
「俺がこんなに溺れてるのに……もっと溺れさせるつもりかい?」
気付いてないの……?
君には、初めてをたくさん貰っていること。
そして……
「もっと溺れて下さい……」
服の裾を掴んで、春歌は神宮寺を見上げた。
あぁ……君は分かってない。
どれだけ俺を煽っているのか。
どれだけ……
君に溺れているのか。
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