ひまつぶし
□愛する日常
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「ねぇ、秋穂ちゃん」
『ん、どうしたの?』
あれから、もう何年もたった。
秋穂は、前世―――と言っていいのか分からないが―――の歳に近づき、もう12歳。
来年の3月には、中学生になる。
「あのね。秋穂ちゃん、公立の中学校だと、ここからかなり遠いでしょう?」
『? うん。でも、行けない距離じゃないよ?』
「そうだけど……でもやっぱり、通いやすい方がいいじゃない。だから、私立の中学校行ってみない?」
『え?』
秋穂は驚いて目を丸くした。
隣にいたお父さんが平然としているのは、恐らくもうすでに2人でこの話をしていたのだろう。
『でも……私立、お金がかかるんでしょ?それに、学力もいるんだろうし……』
「あら、お金のことは心配しないでいいのよ!うちは1人っ子だから、お金もかからないし。それに学力だって。秋穂ちゃん、お母さんやお父さんと違って勉強もできるし」
「おいおい……、」
さらりと言ってのけるお母さんに、お父さんと秋穂は苦笑した。
だが、こうやって言いたいことをハッキリ言えるところにお父さんは惚れたんだろうし、秋穂もお母さんのそういうところが大好きだった。
しかし、勉強ができる、というのは誤解だ。
秋穂は、実質14歳。
小学校の勉強は、「出来て当たり前」のものだった。
『うーん……』
「やっぱり、友達と離れるの寂しい?」
『いや、仲のいい友達なら学校が違っても会うだろうけど……』
私立となると、自分たちのために秋穂を売った彼女たちに会う確率が高くなると考えたのだ。
しかし、そこまで気にすることもないだろと思い、秋穂は頷いた。
『うん、分かった。私、私立に行くね』
「よかった!私立の方が設備が整ってるし、きれいだし!」
『お母さんが通うわけでもないんだけどなぁ……』
秋穂が苦笑して言うと、お父さんは笑い、お母さんは「だって、」と口をとがらせた。
秋穂は、こんななんでもない日常が、平和が、大好きだった―――。
愛する日常