ネタ・短編部屋


□世界一の
1ページ/1ページ





白と黒に彩られた俺の部屋に取り残されたようなベビーブルー


そしてほのかに香る甘いチョコレートの香り


「…なんだ、このトリュフの山…」


甘い香りは俺の気分を低下させた


「何って今日はバレンタインですよ、バレンタイン」


「俺が甘いもの嫌いなの知ってんだろ」


げんなりとして青筋を浮かべた顔で黒子をじとりと睨むと彼は妖艶に微笑んだ


「知ってますよ?」


そう言って山から1つ、トリュフを取り出す


そのトリュフを、俺の唇に押し付け、そして親指で押しこむ


甘さだけが口の中に広がって、口の中から出そうとするとそれを察したかのように黒子の親指は俺の舌を押さえた


飲む込むことしたできなくて、甘い塊を喉に無理やり流し込んだ


喉仏が上下し、口の中からトリュフがなくなったのを確認すると黒子は口内から親指を抜き取る


「甘ぇ…」


舌を押さえられたせいで、口端から垂れた唾を手の甲で拭うと彼は笑った


「そりゃあ、チョコレートですからね


ねぇ、それ全部食べてくれませんか?」


俺はトリュフの山をちらっと見た


そびえ立つチョコレートに少し眩暈がする


しかし、断ることは許されないだろう。彼の機嫌を損ねたくはない


渋々トリュフを手に取って口に運ぶ


甘ったるい口内にだんだんトリュフを手に取ることが億劫になる


食べても食べても減ってるように見えないチョコレート


血の気が下がって、眉間に皺が寄るのを感じるが手を止めることはできない


そんな俺を頬杖をついて見てくるコイツは本当に悪趣味である


「…そんなに見てきたら食べづらいんだが」


「僕が君にチョコレートをたくさん食べさせている理由は分かっているでしょう」


分かっている、そんなに楽しそうに俺を見ているのだから


「あなたは鋭いですからね」


「…楽しいか?」


「えぇ、あなたの顔を苦痛で歪ませるのはひどく楽しいですね」


「……悪趣味」


「なんとでも」


あと10個くらい残ったところでついに手が止まった


つらい、もう無理だ、なんてネガティブな思考しか思い浮かばない


顔を下に向けて、胸やけを押さえようとしていた俺の視界の端で白い手がトリュフを摘まんだ


…また無理やり食べさせる気なのか?


ゆっくり顔を上げると、彼が自分の口にチョコレートを含ませたところだった


「は?」


自分でチョコレートを口に含んだかと思ったら手を頭の後ろに回される


そして思いっきり黒子の方に引き寄せられた


黒子の唇に俺のそれをくっつけられて、口の中に溶けたチョコレートを流し込まれる


離されて、得意げな顔をしている黒子を前に俺は呆然とするしかなかった


そんな阿保みたいな顔を晒している俺に何も言わずに、黒子はまたチョコレートを口に含んだ


「チョコレート、いらないんですか?」


小首を傾げる黒子に俺は彼の意図に気が付く


チョコレートはもう食べたくない、だけど黒子とキスはしたい


そんな俺の心を逆手に取ったのだろう


「…本当お前って」


俺にばかり意地悪で頭の回転が速くて


ところどころ下衆で、サディストで


つい、少しの溜息が漏れた


「…お前、俺のこと嫌いかよ」


そっと目を閉じる


目を閉じた俺にゆっくり近づいてくる気配とチョコレートの香り


見えないけど彼が静かに笑った気がした


「これが僕の愛の質ですよ」


受け取ってくれますよね


再び影が重なった













空になったチョコレートの皿


優しく微笑んだベビーブルーの彼


あぁ、俺は幸せだ


なんて柄にもないことを考えて俺は彼に笑い返した







世界一の
幸せ者だなんて言ったら、きっと彼は笑うのだろう



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ