長編・中編・シリーズ

□城塞都市・閉塞空間
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哀れな子よ

憐れな子よ

そなたに力を与えよう

世界を統べる力を

「力………?」

それは破壊の力

それは守りの力

我々の力をそなたに託そう

だから生きろ

その目で世界を見てみるといい

そして

その目で世界を見た時に

また会うとしようか

「な、なんだよ…誰なんだ」

また会おう

不遇の子よ











かつて
破壊の限りを尽くし
世界政府を絶望に貶めた
『七罪』と呼ばれる
戦闘兵器がいた

彼等は百年前
人間対兵器の前代未聞の戦争である
魔女狩りによって殺されたと伝えられていつ

その戦争に参加した人間は命と引き換えに兵器を沈めた
故に戦争の生末を知っているものはいないのだ
人間の数を圧倒的に減らしたその戦争はまさに残虐そのもの
人間と兵器は相打ちで終わった

果たして
その言い伝えが真か否かは
議論すべき議題として
今だに残存しているという






「次!12番!」

サードエリア騎士団地区

「はい!」

「ここを選んだ理由は!」

誠凛騎士団本部

「はい!この国を見返してやりたいからです!!」

正面口前ホール

「は?」

「はぁ?」

「はぁぁあぁあああ!!?」




「以上が私が騎士団を志望する理由です!」




そこには希望を持った騎士団が集っていた




「お前は馬鹿かっ!!」

ゴチンッ

「あいたっ」

いきなり殴られ痛む頭を擦りながら彼を睨むが彼は気づかないで俺を叱り続ける

「騎士団の入団試験で!しかも騎士達の前で!何国への反抗を生命してんだ!!普通は反逆罪で捕まるぞ!!」

「……俺は嘘は嫌いだ」

彼の言っていることは分かってる

だけど思考より行動が先に出てしまったのだ

自分の愚行に気づいているだけあって猛烈な居心地の悪さを感じて目を逸らした

耳だけ欹てて聞いていると彼の溜息

「わかってるさ、お前が国が嫌いなことは痛いほどよく分かってる。」

「……だったら」

「だけど!!それは表に出しちゃあいけないんだってば!!」

友達の言葉に頬を膨らませる

常識としては分かってるんだ

彼等に盾突いちゃいけないことくらい

だけど

「わかったよ、次は言わない」

それを抑えられないくらい自分は大人には成りきれてないんだ

そう

あの時から変わらず

「うん、約束ね。じゃあ早く帰ろうよ、シスターきっと待ってるよ!」

「お、おいっ!!」

手を握られ走り始める彼に連れられ走り出す

空は青く澄んでいて鳥達は元気に鳴き続ける

いつも通りな街の活気の中俺達は駆け抜けた

「ただいまー」

「ただいま」

「おや、お帰りなさい」

着いた孤児院

中に入ると自分より鮮やか赤が威風堂々と佇んでいた

「あ、赤司さん!!」

「やぁ、今日も元気だね」

赤司を好きな彼は走り出して彼の元にいく

頭を撫でられて幸せそうな彼を俺は離れたところから見ていた

「今日は何でここに来たんですか?」

「今日はシスターと話があってね、っとすまねいが早く帰らなくては」

「えー、赤司さん帰っちゃうんですか?」

「今度また遊びに来るよ」

赤司は彼の頭を撫でてから優しい笑顔で俺の横をすり抜けて孤児院を出ていった

赤司を見送ってからにこにこ俺の方に近寄ってくる彼に眉間に皺を寄せると彼は口を尖らせた

「本当に赤司さんが嫌いだよね」

「……胡散臭いんだよ、あいつ」

「何言ってんのさ!この孤児院で僕達が生きていけるのも赤司さんの寄付があってのことでしょ!赤司さんはね、優しいんだよ!!」

「俺はそうは思わねーよ」

「何さ、それー」

口を尖らし赤司の良いところを述べていく彼を適当にあしらって食堂に向かう

彼も後ろからちょこちょこと着いてくる

それを確認してから俺はもう一度前を向いて歩き出した








「じゃあ、おやすみ」

「おう、おやすみ」

食事も終わって睡眠時間

各自部屋に戻って寝る準備をする

俺も例に漏れず部屋に入った

「あ、れ……?」

閉めたはずの窓が開いている

強い風が入ってきてカーテンが大きくはためいている

俺は首を捻りながら窓を閉めるために一歩を踏み出した

「はぁい?」

「うわぁ!!?」

目の前に逆さの顔

俺は驚いて飛びのき尻もちをついた

バクバクいっている胸を抑えながら目の前の顔を見た

どうやら相手は蝙蝠のように起用に天井に逆さづりになっているようだ

黒く薄汚れたマンとを靡かせ彼は天井から降りた

「だ、誰だよ…お前」

相手は窓際の棚の上の置物を弄りながら横目でこちらを見た

にんまり

そして愉快そうに笑った

「ひどいなぁ、気が付かないかい?俺はアダムさ、アダム」

「アダム?何でお前がここに来たんだ?」

相手が知ってる人間だと分かると途端警戒を解いた俺にアダムは苦笑いをした

「今日来てたね」

「みっちり怒られたけどな」

「ははっ、例の子供にかい?」

「あぁ」

「それは残念だったね。でも俺はあの台詞、よかったと思うな。風刺が効いてるよね」

くるりくるり

楽しそうに回りながらけらけら笑う彼

俺は本棚から本を取り出してベッドサイドに座った

演技めいた彼の動作を見ながら本を開く

「お前が来いと言ったし好きにさせてもらうさ」

「あはは、最初から問題児扱いだろうね。君だし」

「…どういうことだよ」

「そういうことだよ」

ふくれた俺の頭を撫でたアダムはまた窓の桟の上に器用に立った

くるり

こちらを向いて特徴的なシニカルスマイルで手を振った

「じゃあ俺は行くよ。これから頑張ったらいいさ」




また
強い風が吹いて
目を閉じる


目を開くと
もうそこには
誰もいない


「……頑張るさ」


手を力強く握る
野望を心に
希望を手に


「あの時、決めたんだ」








「俺は国を滅ぼすって」








大我、慢心には気を付けるんだね



アダムは笑った












 

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