長編・中編・シリーズ

□I don't always make you happy.
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ふと無意識に耳を触る

隠してるピアスホールを弄る

大きく開いたピアスホールを指でなぞる

あぁ、いらいらする

髪を耳にかけて歩いていると目の前に黒

「げっ、誠凛」

「花宮真…」

それでも前を無表情に見つめ続ける

あぁ、疲れた

しんどい

手には力が入り続けついには爪は皮膚を突き破った

なんてことのない怪我だ

けど負ったのは耳だ

軽傷とは裏腹に血が大量に流れてくるが怪我を抉る手は止めなかった

途端、腕が引かれる

耳から手を離されて俺は黙って花宮を睨みつけた

彼は少々焦った顔をしていた

「何やってんだよ…」

声は呆れと驚きを含んでいた

悪童が聞いて呆れる

それでも俺は花宮の行動を見送った

花宮は俺の耳に手を伸ばしてくる

耳に開いた五つの穴に目を見開いた後優しい手つきで怪我に触れた

取り出したハンカチで怪我を抑える彼の手は赤く汚れただろう

他人のために手を汚す、か

彼はそのようなことはしない人間だと思っていたが

勘違いだったらしい

不安そうに耳を見る彼を見つめていたら目があった

不快そうに眉を寄せて俺から離れる

意味が分からない

嫌いなら近寄らなきゃいいだろう

なんてお人好し

ハンカチを押し付けられて受け取ると彼はいつものように独特な笑みで笑った

「ふはっ、いい子ちゃんが自傷だなんて無様だな」

「……お前はいったい何がしたい」

「、は?」

さらに目を見開いた彼は俺を確認するかのようにじろじろと見てくる

少々視線が鬱陶しかったが俺は言葉をつづけた

「嫌いならほっといてくれ、ハンカチもいらねぇ」

ハンカチを花宮に投げ渡す

血は止まったようでそれならいいかと足を進める

「…んだよ」

後ろから聞こえた花宮の声に振り返ると彼は目の前に立っていた

何だか怒っている様子の彼を眺めると両手首を握られる

抵抗は、しない

花宮は急に顔を上げると声を荒げ始めた

「この俺がせっかく優しくしてやったんだよ、受け取りやがれっ」

彼はひどく苛立っている様子だった

「その点については感謝している。しかし俺にはもう必要ない」

「こんな血塗れのハンカチすぐ返す奴があるか!!」

「………洗って返せばいいのか?」

意味が分からない

意味が分からない

花宮がぽかんと口を開けてこちらを見ているがその感情は読めなかった

手首を掴んできた手の片方を動かして彼の手に絡める

所謂恋人つなぎをすると彼の肩が跳ねた

そのまま引っ張ると案外簡単に花宮はついてきた

「は…え、……は?」

「洗うから家に寄れ」

「明日返してくれれば…」

「いちいちお前に会いに行くのはめんどくさい」

複雑そうな顔をしている花宮をしり目に俺は家に向かっていった





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