Shortstory
□愛憎少女
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廃墟とかしたビルの屋上に一組の男女。
男は尻餅をつきながら必死の形相であとずさる。
鼻水混じりに涙を流し、情けなくも「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」と悲鳴をあげつづける。
男を支配していた感情はまさしく死への恐怖だった。
そんな男に一歩一歩ゆっくりと踏みしめるように近づき、柵のない屋上の端に追い詰めていく包丁を持った女。
淡く月に照らされた顔は、男とは違い涙を流しながらも、散りゆく桜のように、どこかもの悲しく、儚くも美しかった。
そんな女から吐き出される言葉という名の゛毒゛
「終わりね。あなたを殺して私も死ぬわ。あなたが悪いのよ?私というものがありながら、他の女なんかみるから…。私はっ私はっこんなにこんなにこんなにこんなにこんなにあなたを愛しているのにっっっっっっ!!どうして…どうして…」
「ねぇっどうしてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
その問いに男は答えない。
ただただ、「すまない、すまないっ」と腹を決めたかのように土下座をしながら謝りつづけた。
そして、
「もう、いいわ…」
消え入りそうな声でつぶやく女に、
「許してくれるのかっ!?」
バッと男が顔をあげた瞬間。男の胸にはしる鋭い痛み。
「あ゛…ががががががぐゎゎっっっ!!」
言葉にならない、声、をあげながら男は、包丁が突き刺さり赤く染まった自分の胸と、自分を刺した女をみて、息絶えた。
女は男が息絶えていくところを最後まで見届けると、死体と化した男から包丁を抜き取った。
「愛して、いたのよ…」
女はそうつぶやき、抜き取った包丁を今度は自分の胸に突き刺した。
「これでっわ、たし、たち…ずっと、一緒、ね…」
女は昔のように優しく微笑みながら男の隣に倒れこみ、息絶えた。
たった一度の過ちで全てを失った男と、男を愛しすぎて狂ってしまった女の、哀れな末路がそこにあった。