短編

□Give a rest
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柔らかな湯気が微かに舞う。
その柔らかさのように自分の鼻孔をくすぐるのは、上品な茶の香り。目の前には焼き菓子があり、周りには誰もいない。元々騒がしすぎることはないロイヤルパラディンの食堂だが、人がいるのといないのとではまるで違う。
そんな空間に一人でいるのは、勇気の剣の名を持つ騎士。

現在、ブラスター・ブレードはつかの間の休息にひたっていた。

「…」

茶に菓子にと、普段のブラスター・ブレードからは想像ができない―と周りに人がいれば思うのだろう。そして、いつになく気を抜いているとも。
実は気を抜いているように見えて頭の中では休息の後の行動について考えているのだけど、そのことを知る人はいないし、見抜ける者もそうはいないだろう。
見抜けるのはきっと、彼よりも上手で、彼自身が『敵わない』と思っている者達だ。それは当然ロイヤルパラディンの頂点に立つ騎士王であったり、ブラスター・ブレードの階級の垣根なしの友人であるアーリーだったりするわけだが。

「ブラスター・ブレード」
「…ガンスロッド様?」

この孤高の騎士もその内の一人だ。

思わぬ人物の不意の登場に、ブラスター・ブレードは礼をとろうと慌てて立ちあがろうとしたが、ガンスロッドはそれを手で制し、ブラスター・ブレードの向かい側に腰を下ろした。相手が座れと言っているなら無理に反する理由もない。ブラスター・ブレードはガンスロッドの言葉に甘え座りなおした。

「こんな時間に休憩とは珍しいな」
「昼時は時間が取れなかったので…」
「アーリー様の捜索か?」

理由を言うのはあえて避けたというのに、ガンスロッドに見事に確信をつかれてしまった。
相手が相手だ。空気を読まなかったうえでの発言ではないことはよくわかる。

ここでこの確信をついてきたということは、隠すなという意だろう。

ブラスター・ブレードから苦笑が零れる。
さりげないようで、相手の意図が読めてしまえば真っ直ぐすぎる気遣いは下手にやられるよりもずっと心地いい。
こういうところも『敵わない』と思ってしまう一因なのかもしれない。

「…ご存知でしたか」
「エレインが困った顔でいたから事情を聞いたんだ」
「なるほど」

午前から正午過ぎまでかけてのアーリー捜索には、自分とエレイン、それにふろうがるというメンバー構成であった。
ふろうがるは積極的に人に聞きまわっていたようだが、あまり積極的でない世界樹の巫女はきっと半分立ち往生のような状態だったのだろう。儚い容姿に加えてのそんな姿を見てしまえば、声をかけなければならないという―ある意味『騎士』としては当然の気持ちが芽生えるわけで。

そこでアーリーと同じく執務室からよく姿を消す騎士王を思い出して、問いかけた。

「ガンスロッド様はアルフレッド様の…その、見張りは…」
「今はボールスが目を光らせているから、私は休憩をもらったんだ」
「ボールス様が…」

それはもうにこやかな顔でアルフレッドの傍に立っている断罪の騎士が容易に想像できる。
ボールスは、はっきり言って食えない人物だ。『〜と思う』とか『〜な気がする』ではない。確実に食えない。目元は優しそうで口調も中々に穏やか。根はいい人、なのだろうが、どうしても。

(あの方から逃げることは容易じゃないだろうな…)

逃がしてもらえない騎士王を想像して、ある意味ありがたい人物なのだとも思う。

「で?これからどうするんだ?」
「……もう少し休んだら、鍛練しに行こうかと」

すっかり読まれている思考に、また苦笑がもれた。

「では私も付き合おう。今日こそは手合わせできそうだしな」
「はい」

後どれくらいでここを離れようか、と話している最中に近づいてきた気配に二人は顔を入口へ向けた。

「ブラスター・ブレード様」

「トリスタン」

白銀の髪に、竪琴を抱えた中性的な顔立ちの騎士がそこにいた。
穏やかな微笑たたえた騎士は、一礼して静かにこちらに歩み寄ってくる。



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