(※サッチ)
(※ランダム3種)






「お姉さん、どこですか?」


十代半ばの男の子が甲板を歩きながら彼女を探す。
海賊船に乗るには若い方だけど、海の荒事とは無縁そうな爽やかな顔に声変わりしたばかりの掠れた声。

キラキラした、青春真っ只中!みたいな存在はここじゃ目立つ。


「カスタネット、こっち!」

「……お姉さん!」


よくあの声が聞こえたなと思うけど、彼女は甲板の洗濯物の隙間から顔をのぞかせ手を振っている。
ゴールを見つけたランナーよろしく、カスタネットは彼女の元へ駆ける。


「起きたら居なくて、びっくりしました」

「ふふ。ごめんなさい、よく寝ていたから起こしたくなくて」

「起こしてください、何かあるなら俺も手伝いますから!」


怒ったような言い方が少し幼い。
俺があのくらいの頃って、もっとこうガツガツしてたっつーか…。同じ男なのかと思うくらい違う生き物に思える。


「…おいサッチ。阿呆みたいに口開けて阿呆主張してんなよい。ゴミでも入れて欲しいのかい?」

「足を踏むなよマルコ!俺の口はゴミ箱じゃなくて料理と会話を楽しむ器官なんですー!」


踏み躙られる前に足を引き抜き距離を取って睨むと、薄笑いされてイラっとした。


「次の島で引受人に頼む手はずになってんだ、構いたけりゃ混ざってこいよい」

「…そりゃ弟は可愛いけどさ」


ウチの乗組員じゃないだろ。
弟に接するようにとは思うけど、どうにもお客さん対応してしまうんだよなあ。

視線の先では彼女にまとわりつくカスタネットと満更でもないどころか満面の笑みの彼女。


「お姉さん、俺に手伝えることありませんか?」

「ありがとう。それじゃあ乾いた洗濯物を運んで畳むのを手伝ってくれる?」

「はい!」


…いつも一人でやると断るくせに。
俺が手伝うって言う時はいいから自分の事やって、と必ずお断りされるんだけど。

俺の内心の文句なんか届くはずもなく、洗濯カゴをわざわざ二人で持って、なんか楽しそうに話しながら甲板を歩いていく。


「…俺、飯つくってくるわ」


俺は一つ伸びをして彼女たちとは別な入り口から船内に入った。背中にかけられたマルコの声は全力で無視。

カスタネットを保護してからというもの俺の気分も包丁もどうも乗らない。
たった数日、彼女と話す時間が減っただけでこの有様はないんじゃないか?



「…あの、お姉さん。隣で食べてもいいですか?」

「ええ、どうぞ座って」


助けたとはいえガラの悪い海賊の男たちに囲まれたカスタネットは警戒心むき出しで、まともに話も出来なかったところへ彼女の登場。

綺麗すぎるナースに比べ、とっつき易く面倒見のいい彼女が居れば打ち解けるのはあっという間。


「カスタネット、良ければあたしの部屋に来ますか。少し手狭ですが」


流石にトイレと風呂は俺たちに混ざってやるけど、ウチの大部屋に放り込めない、と彼女が連れこむような形でカスタネットと部屋を共にした。

お姉さん、お姉さんとくっついて回るカスタネットの話を逐一聞いてやる彼女はどこか嬉しそうで。
初々しくてこっちまで初心に帰る、と慈愛に満ちた眼差しをしてたとマルコに聞かされる始末。冗談だろって三回も聞き返しちまった。

戦闘で心を抉る言葉を吐き、自分より体格のいい男たちを殴り飛ばしてる姿をカスタネットは想像もできねえだろう。




「…何か飲むなら俺が用意するぜ?」

「いいから自分の仕事してて」


珍しくキッチンに一人で顔を出した彼女に話しかけると素っ気ない返事をする。ちょっとだけ口がニヤついたのはいつも通りの彼女の反応が嬉しかったから。


「若い男に随分と入れ込んでるみたいだけどさあ、あんまり構うと情が移るよ」

「もう移ってる。次の島であの子と別れ難いよ」


近寄ったら彼女の髪に見覚えのない髪飾りが付いていて、それは市販品にしては素材が安っぽい。
いくら俺が勧めても買って来ても一度だってアクセサリーをつけてくれた事がないのに。嫌な予想ほど当たる。


「…髪のやつ可愛いな」

「そうでしょう?カスタネットが作ってくれたの。あの子の持ってた貝殻と真珠だそうよ。だからお礼にあたしも何か作ろうと思いまして少々おやつの準備など」

「へー、そうなんだー」


お姉さんの髪の色によく似合うと思うって貝の色を選んでくれたと、俺の方はちっとも見ないで表情を蕩かす。
貢いで気を引こうとする奴ってバカみたい、オヤジみたいにどんと構えてないとってのが口癖だった彼女が物貰って笑ってる。

俺だったらもっと値の張る宝石も服も買ってやれるのに。
露店で売ってるヤツよりちょっとマシくらいの、子供の作ったヤツじゃん。


「…………」

「え?何?」


思わず口から溢れた言葉は届かなかった。言ったくせに聞こえなくて良かったと思うのは、きっと彼女の反応が解るから。


『俺も君に選ばれたい』


…情けないと解ってる言葉を繰り返す若さが足りず、俺は誤魔化すような笑顔を作る。いかん、大人の余裕までなくしたら格好がつかねえ。


「いや。やっぱり若い奴には敵わねえなー、なんて思っただけだ」

「…手作りの大変さも嬉しさも、温かさも。込められた心を教えてくれたのはサッチですよ」

「!」


とん、と俺の二の腕あたりに彼女の額がすり寄せられる。服越しでも触れ合う感触に息が止まった。

年に一度あるか無いかのデレが今起きてると理解する前に、意地悪な輝きを伴った瞳が狙撃する。


「年下の男の子に妬くなんて。サッチはあたしの心を奪っておいて、これ以上何が不安なの」


…途端に俺の口からは意味をなさない呻き声が溢れ出た。












この身、心も

君の手が。








(君、…君なあ、そういうところだぞ?!これだから君ってやつは!今夜は何が食べたい?!)

(…とりあえず床に転がるのやめたら)

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