小話 6


□例のあの部屋。
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(拍手お礼/ACE)





先の戦闘で手に入れたお宝の地図。
各隊で暗号解読合戦をし、有力地を絞り込み、辿り着いたのは無人島と変わり果てた寂れた島。
元は栄えたのかもしれないが、今となっては放置された船が侘しく並び見えるだけ。家々に人の気配はなし。早々に地図を広げ×印の地点に繰り出す次第となった。


「じゃあお前はエースと組んであそこに見える建物の探索担当だ。偵察に出た斥候から五階建てとの報告がある、二階の探索を頼む」

「了解」

「わたしエースと一緒なの?他の人がいいんだけど」


彼女は不満そうな声を出したものの、ここからもよく見える件の建物を目指した。比較的素直に行動するのはオヤジの指示のせいだな。
いつもこうなら良いのに顔を合わせりゃ口喧嘩の毎日だ。俺とペアがそんなに嫌か?

民家らしい崩れかけた住居のいくつかを通り過ぎて更地にぽつんと立つ目的の建物へ。


「…何だよここ、お化け屋敷じゃねえか」


いざ目の前にしたそこは壁を蔦が這い窓ガラスは割れ、昼日中だというのに薄暗い影を落としている。見るからにおどろおどろしい。肝試しに打って付けと断言できる外観。
仲間たちから『探索拒否』された場所を俺と彼女に押し付けたのだと気がつくのに時間は掛からなかった。


「ウワ、入りたくない。嫌な予感がする」

「ここにお宝があるかもしれないんだ、行くぞ…あ、お前は怖いならそこに居れば」

「は?全然怖くないしお宝も私のものだし!」


安い挑発に彼女は勢いよく乗っかり、肩を怒らせ先に入って行く。単純で扱いやすい奴。よく言えば素直ってやつだ。のしのし歩く彼女の数歩後に俺も続く。


「やだ、新しいサンダル買ったのに!汚れた!」


建物の中は外観よりさらに悪い。光が遮断され見通しが悪く、壁も床もヒビが入り足の多い虫や小さな生き物が、侵入者である俺たちを避けて走る。謎の液体の水溜りもできていた。変な臭いがする。


「こんな場所にそんな格好で来るなよ。汚れるに決まってんだろ」

「…オヤジに見てもらいたいっていう女心が解らないエースには彼女とか絶対できない」


これ褒めるべきだったのか。女ってわからん。いやでもサンダルにスカート、胸元の開いた服とか冒険舐めてんのか?って格好だろう。街とかで見たら、まあ、良いんじゃないかとは思うけど。
言い返す前に彼女の言葉が俺の言葉を封じた。指差す先には一つの扉。


「見てエース。あのドアだけやけに綺麗じゃない?破損もないし」

「んん…怪しいな。開けてみるか」


ドアノブに手をかけるとあっさり開く。鍵はついてないようだ。室内は異様に綺麗で、蜘蛛の巣もなく明るく清潔な部屋に見える。
机の上に手紙のようなものが乗っているのに気がついた俺は室内へ踏み入った。お宝の手がかりかもしれない。


「あっ、ばか!罠かもしれないのに…待ちなさいってばエース!」


慌てて後をついてきた彼女に構わず手を伸ばして開封した。罠を怖がっていてはお宝にありつけない。むしろ罠がある方が有力だって証拠だろう。
何の変哲もない白い封筒の中身を一瞥して首を傾げる。


「…何だこれ?」

「貸して!」


彼女は手紙を取り上げて目を通した途端に青ざめドアにダッシュした。
ガタガタと音を立てるばかりでドアは動かず、舌打ちして蹴っ飛ばす。


「ダメ開かない…最低!もう、エースのせいだからね!!」

「そんなに怒るなよ、大した事じゃないだろ」


射殺さんばかりの眼光を向け彼女は言う。


「…『お互いの服を交換しないと出られない部屋』…これ絶対に例のあの部屋じゃないか!」

「何それ?」


彼女が言うにはとある筋では有名な『不思議部屋』で指令をこなさなければ絶対に部屋から出られないらしい。
俺も試しに蹴ったり殴ったり、火拳を叩き込んだけど扉も壁も全く無傷。


「本当だ!開かねえ、面白いな!」

「面白くない!」

「キーキー怒るなって、服変えれば出られるんだろ」


簡単じゃないか。と続く言葉は喉の奥に引っ込んだ。彼女の服を着る?


「〜〜おま、お前ェー!何でそんなスカート履いてきたんだよ!?」

「うるっさい!そっちこそ何で半裸なの?!シャツくらい着てきなさいよわたしに裸になれって言うの?!絶対に嫌!!」

「俺だって嫌に決まってんだろ!!」


現状把握。最悪じゃねえか!無理だろ無理!こいつの服が俺に入るわけがない。いや入ったとしても女装じゃねえか。断固拒否だ。

二人で散々喚いて破壊工作に勤しんだが二時間も経てば諦めムードが漂い始め、ついに無言で立ち尽くす。そのうち助けが来る?期待できない。皆お宝探しに夢中だ。下手すりゃあ出航まで放置される。

彼女を見ると光を失った虚な目で俺を見返す。やるしかないとの思いは同じ。部屋を出るまでの辛抱と言い聞かせた。


「…お互いに後ろ向いて脱いで、服を右手の方に置く。背中合わせのまま左回りで移動、着用後にドアにダッシュでどう?」

「全く良くねえけど了解だ」


数分後。
パツパツでチャック全開のスカートを無理やり腰に付け(ちょっと布が裂けた)、はちきれんばかりのトップスに上半身を締め付けられ、爪先だけ入った華奢なサンダル。そんな最悪の格好の俺と。


「こっちを見るな!ばか!目ェ閉じててよ!!」

「蹴るなよ痛え!見てねえっての!」


…嘘だ。ちょっと見えた。脱いで肌が見えるといつもと全然違うんだな。
思ったよりあった胸を手で隠して、一番細いベルトの穴でもでかい俺のズボンを片手で押さえてる。
大人の服を着た子供みたいな不格好さなのに胸とか腰とかは女そのもので。


「あっ!今、カチって聞こえた!ドアが開いたわ、オッシャア!!さっさと出るわよエース!」

「ば、ばか!お前そんな格好で…!」!


ドアが開くなり飛び出して行く半裸の彼女を慌てて追う。自分のみっともない女装姿を見られるのも嫌だけど他の奴に彼女の肌を見せてやるわけにはいかない。
あられもない姿で廊下へ歩み出た彼女の腕を掴んで手近な部屋へと逃げ込む。よしこれで一安心。


「…ちょっとぉー!!やっと抜け出したのに何でまた部屋に入るの?!」


またしても開かないドア。きっとここもまた別の『指令をこなさなければ出られない部屋』なんだろう。

閉じ込められたと理解して安堵の息を吐く。この肌を誰にも拝ませてなるものか。怒りの鉄拳を頬に受け止めつつ、俺は安堵で目を閉じた。







柔肌、

細腰、

目眩の中で。







(もう嫌!キスしないと出られないって何?!)

(口にしろとは書いてないだろ、まあその、手とかおでことかなら…)



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