小話 6


□モビーディック社製品PR.
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拍手お礼ランダム三種。


(ACE)




ピピ…と小さな電子音がなってそれは起動した。


「…システム起動。はじめまして、俺はエース。あなたがマスターですね」


買ってしまった。ついに買ってしまいましたよ!!モビーディック社のアンドロイド!TYPE002:ACE…ッ!噂に違わぬ出来の良さ!素晴らしい!


「…マスター?」


なんと私の給料一年半年分ですからね!!!
笑っちゃうくらいお高いけどこれでもノーマルタイプ。様々なオプション付きだと貯金がぶっ飛ぶお値段になる。

それでもいい、私は癒しが欲しかった。

見てよこの微笑み…可愛い…尊い!!
そばかす可愛い。くせ毛可愛い。

滑らかに動いて喋る最先端の技術を盛り込めるだけ詰め込んだ人型自動機械は肌質も音声も人そのもの。買ってよかったー!!


「……おいっ!あんただよアンタ!返事くらいしろよマスター!!聞いてんのかよ?!」

「アッハイ」


優しげな微笑みを消したACEが鼻にしわを寄せて声を荒げた。思わず身を竦ませて返事を返す。


「ん。じゃあとりあえず認証だけ先にやってくれ。使い方解るか?」


認証方法は互いの手を合わせ私の指紋と生体反応を覚えさせる事。
五秒くらいの手合わせでバイタルチェックまでできるらしい。


「よし。今日からよろしくな!マスター」


にか、と太陽みたいな笑い方をしたACEはガサガサと自分の入ってきた段ボールを片付け始める。


「あっ片付けなら私がするよ!」

「俺、家事型じゃねえけど日常生活データ入ってるしこのくらいは出来る。それよりマスターがどんな生活してんのか教えてくれよ」


ほんとに人間みたい。
機械っぽいところがないんだけど。


「……なんかマスターってつまんねー生活してんだな。会社行って帰ってくるだけじゃん。休みの日は?…あー疲れて寝てんのか」

「…あの。マスターってのやめて貰っても良いですか?」


若い子をお金で買ったような倒錯感が半端ない。妙な性的嗜好に目覚めてしまう前に…と頼むと、ACEはびっくりしたみたいに目を開いて頷いた。


「名前で呼べって事か?じゃあアンタも敬語はやめてくれよ。尻の座りが悪ィ」

「すごい言葉知ってるね?!」

「辞書入ってるからな。外国語もデータダウンロードすれば出来るけど、別途料金が発生します」

「あは!今のところ大丈夫かな」


得意げな顔が可愛い。現時点での可愛いが過ぎない?可愛いの摂取過多で私倒れない?!


「ごめん名前呼びはちょっと待って私の心臓がもたないんで」

「…?マスターもダメなんだろ、じゃあ…とりあえずアンタでいいか?」


雑っぽいところもまた良し。
私が身悶えながら親指を立てて見せるとおかしなものを見る目で見られた。


「エース君って…」

「エースでいいよ。TYPE002とか二番って呼ぶマスターもいるしエースたんとかよく解らんあだ名で呼ぶ人もいるけど」


その辺りのユーザーはお高いオプションつけてる人たちだろうな。
遠い目をしつつ他のマスターの話はあまり出さないで欲しいとお願いした。


「了解。俺はアンタのエースだもんな」

「ふぐぅ…ッ!!」

「フグ?河豚食いてえの?」


…買ってよかった!天使!!私鼻血出てない?大丈夫?!生きてる?!突っ伏した私の背中を撫でてくれるエース君にトドメを刺されそうだが、私とエース君の生活は幕を開けた。







「なぁ、洗濯物!ストッキングはネットに入れろって言っただろ。あとポケットに小銭入れたままだったぞ!この間はティッシュ入ってて大惨事になるところだったんだからな?!出す前に確認してくれよ」

「…ああぁー、癒されるぅ…」

「は?」


暮らし初めて解ったのはエース君は随分と家事スキルが高いことだ。
そう褒めたら『アンタが低すぎるんだよ』と哀れみの目で見られた。ご褒美です。


「なんでもありませんごめんなさい」

「ん。次は気をつけろよ」


そして優しかった。
プログラムだからと解っていても、その優しさと温かさに、陰鬱だった生活が晴れていく。

…仕事とアパートの往復でお酒を飲んで無理やり眠りに就く夜も。

ストレスで胃がぶち壊れて泣きながら胃液吐くまでトイレに座り込む日も。

ひたすら人が死にまくるサスペンスドラマを延々と見ていた休みの日も。


「あ。そうだ冷蔵庫開けてみろ」

「え?なになに?…プリン!私の好きなメーカーのやつだー!」


2ドア一人暮らし用の冷蔵庫。
扉を開くと誇らしげにプリン様がそこにいる。


「へへ、今月の食費が先月より二千円も節約できたんだ!…アンタいつも頑張ってるから。ご褒美だよ」

「…〜〜エーズぐん〜好きぃー!!」


ノーマルTYPEのエース君は飲食機能が付いていない。動力は電気と太陽光、特別なバッテリーは定期交換。

これがまたクソ高いけど何を切り詰めても払ってやる。


「…それさあ、簡単に言っていいのかよ」

「え?」

「す、好きってやつ。大事な言葉だろ」


頬を真っ赤にして目を逸らす顔に私まで顔が真っ赤になる。


「ちゃんと意味わかって使ってんの?アンタって割と頭悪いから心配だよ」

「ひどい!でも嬉しい!!」

「…どっちだよ」










あなたの疲れ

癒します。

TYPE:ACE








(…〜〜私頑張ってお金稼ぐからね!新機能の追加してエース君グレートアップしようね!!)

(いや俺の機能はいいからさ。アンタがもっといい生活できるようにしろよ。俺も手伝うし、あんまり無理すんなよ)

(好き!!!)

(…話聞けよ…)
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