小話 6


□囚われの君。
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(マルコ)







「あー、くっそ!もうこれ無駄足だろ」


しゃがみこんだエースがしかめ面して天を仰ぐ。
石造りの建物内に拗ねた声が響いた。


「…『ひとつなぎの秘宝』の手掛かりが、そう簡単に見つかったら苦労しないよ」


ワンピースに関する手掛かりがある。

その情報を得た私たちはチームを組んでとある島へと向かった。
待っていたのは手掛かりでも情報でもなく、釣られてきたならず者を捉える罠だった。

古い石造りの廃墟には何処にいたのかと思うくらい敵さんが揃い踏み。
探索しつつ蹴散らしたけどキリがない。

おまけに足を踏み入れた直後にブザーが響くわ、落とし穴あるわ、上から謎の液体降ってくるわの大盤振る舞い。


「一番、二番と四番の隊長が揃ってきたのに残念だけど。他の隊員も各隊長が指示して船に引き上げようよ」


エースの肩を叩いて立てと促す横でサッチは軽く視線を泳がせた。


「あっれ、そういやマルコは?」

「もう船の方に戻ってんじゃないの?」


電伝虫を取り出したサッチがコールするが応答なし。


「…んー。出ねえな。とっ捕まってたりしてな〜」

「サッチじゃあるまいし!…まあ一応探しながら船に戻るって事にして、何かあったら連絡ね」


私たちはそれぞれに別な方向へ足を向け、廃墟を軽く見回りつつ各方面から船に戻ることにした。


「…げっ!」


かなりの数をぶちのめしたけど、建物内にはまだ敵がうろついていた。

いちいち相手をするのは疲れる。
見つからないよう身を隠しながら進むと、一匹の汚れた猫がいた。

金の目が私を捉えて、にゃあ、と鳴いた。

この廃墟には野生なのか罠なのか猫を何度か見かけていた。

揺れる尻尾を追いかけると何やら資料庫のような部屋を見つけた。

宝物庫は間違いなく罠だけど、ここも何かあるのかな?
せめて何か盗って帰りたい。

壊れたドアを開け棚の間を歩くと、くしゃみの出そうな湿った匂いが鼻をつく。


「「…………」」


布で猿轡され、手錠を嵌められ転がっていたマルコと目が合った。

暴行の跡が新しく血が乾いていない。


「…っ、ちょ、何やってんの!?」


飛び出しかけた声を飲み込んで、小声に抑え駆け寄る。

身体を引き起こして口を解放すると、ぺ、と血混じりの唾を吐いた。


「…悪い、しくじったよい」


あのマルコが捕まっていて、しかも怪我をしていた時点で感じた違和感の答えは手首にあった。


「これ海楼石?!…動ける?残りの皆はもう港に向かってるの。引揚げようって話になって」

「…っ、走るのは無理だな。肋骨と内臓がやられてる」


立つもの歩くのもきついだろう。
肩を貸したいところだけれど、背の高さの合わない私じゃ無理。


「マルコの電伝虫は?」

「取られちまった」


私の電伝虫で他の仲間に情報を流し、手錠の鍵を手に入れて欲しいと連絡を回した。


「敵に会ったら私が相手するから行こう」


先導しつつ出口を目指す。
通路には隠し路や罠が点在し、私たちの歩みは遅くなる。


「………っ…」


小さな呻き声に振り返ると額に汗を浮かべた青白い顔が目に入る。
口元を押さえた手から血が見えた。


「…ごめん、手当もできなくて」

「平気だ。早く合流しねえとだろい」

「少し休もう」


辺りに人の気配はない。
私が先に座り隣を示すと、マルコは壁にもたれ崩れるよう座り込んだ。


「…情けねえ。情報ねえなら地図くらいと思ったらこのザマだよい」


見つけられてよかった。私はさっきの猫に感謝した。
きっと奴らはすぐに戻ってきてマルコをより厳戒な場所に繋ぐつもりだったに違い。私たちをおびき寄せる餌として。


「同じような事を考えたから私もあの部屋に入ったの、捕まってたのは私かもしれない」


鎖の擦れる重い音が小さく響く。

他の仲間も鍵を探しているはずだけれど、鍵を見つけるのと私たちが敵に見つかるのはどっちが先だろうか。


「能力者には効果覿面だよね、ソレ」

「ああ、傷も治らねえ」


不安が胸を締める。
傷だらけのマルコなんて久しく見ていない。

マルコにとって、捕まって助けられて逃げるなんてどれほどの屈辱だろう。


「………」


何か言わなきゃ、マルコに。

いつだってオヤジの役に立つことばっかり考えてて、この状況に酷く自己嫌悪してるだろうこの人に。

いつも私を助けてくれたマルコを、私だって助けたい。


「…えっと、あの、ほら猫が居るよ!」


何とかしてマルコを慰めたくて必死に考えて出た言葉が『猫いるよ』だなんて。

私ってクソほど役に立たないな。
傷も治せないしこんな時に慰めることさえ出来ない。

気持ちが沈み泣きそうになった時、マルコが手錠のかかった手を猫の方に差し出した。


「ほらこっち来い、にゃー」

「…っ??!!」


指を軽く動かして猫の注意を引こうとしたマルコは、猫の鳴き真似までした。

猫は警戒するように少しだけ間を置き、走って逃げた。


「逃げられちまった…、お前は何変な顔してんだよい」

「…だって、にゃーって…マルコがにゃーとかやめてよ!」


おかしくなって笑ってしまう。
慰めるつもりが、逆に気遣われてしまったようだ。


「…そろそろ行くか、休憩は終わりだよい」

「うん、帰ったら猫カフェの店調べてあげるね」


立ち上がって手を差し出すとマルコが私の手を掴んだ。

鎖が鈍く鳴る。


「泣き虫」

「〜泣いてない!」


わたしは腹に力を込めて身体を引き上げる。
少しこっちに体重を預けマルコは足を踏み出した。


「意地っ張りだねい、認めろよい。俺が怪我してビビってた癖に」

「うるさいよマルコなんてとっ捕まった癖に!」


悪意ない雑言を吐きながら私たちは歩く。出口を示す光が見えるまで。








諦め悪く

みっともなく。









(…いってえ。そこ触るんじゃねえよい、折れてるって言ったろうが!)

(うるさい!私のことを泣かせて、オヤジに言いつけてやる!)






→(サッチ)
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