小話 5

□呼び鈴。
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拍手お礼の小話。


(※マルコ)
(※ランダム表示中)



ピーンポーン。

来客を告げるチャイムの音に、読んでいた雑誌から目を上げた。

新聞の勧誘や押し売りの相手はしたく無い。ドアを開ける前に相手の確認を、とドアスコープを覗いたが誰も居ない。


「…悪戯かよい」


舌打ちしてまたソファに座り直す。
ページを開いたところで、ピーンポーン、とまた呑気な音が鳴る。


「…………」


ドアスコープを覗いたが、また無人。
チェーンは外さずに鍵を開けて外を確認した。

辺りには誰も居ねえ。
隠れてんじゃねえのかと左右を見たが、誰も…。


「……マルコさんですか?」

「!?」


下の方から名前を呼ばれ視線を下向けたら、なんか小さいのが俺を見上げていた。


「……誰だい?」


野球帽にパーカー、膝丈のズボン。
大きな青い鞄を背負っていた。

見覚えのない小さいのに尋ね返すと、鞄から手紙を取り出して俺に向ける。


「これもらって来ました」


封を切って中を改める。


《知り合いの離婚調停で揉めている。決着が着くまで、コレの世話は任せる》


署名も宛名も無いが、間違いなくオヤジの字だった。


「…………世話は任せるって?」

「はい、おじいちゃんに言われてきました。おせわになります」


ガキの割に礼儀正しく頭を下げた。


「いや、…いやちょっと待っててくれ!」


ドアを閉めて部屋に駆け込み電話を取る。
急いでオヤジの番号を出して掛けた。


「……オヤジ!マルコだよい、すまねえが確認したい事が…」

『おう、アレは無事に着いたか』

「着いたかって…着いたけどちょっと待ってくれ!どういう事だい?」


世話?あの坊主のか?
冗談は止めてくれよい!

何だってあんな子どもの面倒なんて!
子供はすぐ喚くわすぐ泣くわ、髪の毛引っ張るわとにかく苦手だよい!


『預かるといっても一週間もかからねえし、聞き分けの良すぎるぐれぇのガキだ。だが出来ねえって言うんなら…』


はぁ、と溜息が漏れ聞こえた。
俺は歯噛みした。


「〜〜〜っ、…了解…引き受けるよい」


出来ねえなんて、この人には口が裂けたって言いたくねえ。
物凄くやりたくねえがわざわざ俺を選んでくれたのだから、と無理やり言い聞かせて『了解』という言葉を口にした。


『必要なモンは持たせた。足りないモンがあればその都度連絡しろ』

「…了解」


任せたぞ、と言いオヤジの言葉は切れた。
堪えていた溜息を吐き出し、玄関に戻った。
オヤジに任せると言われたら腹をくくるしかない…。


仕方なくドアを開けたらインターフォンの下で小さいのがぼんやりとしゃがんでいた。
騒いでないし遊んでもいない。

チェーンを外してドアを大きく開く。


「待たせたな。とりあえず入れよい」

「おじゃまします」


小さいのは靴を揃えて上がった。
なかなか躾が行き届いているようだ。
これならそう面倒もなく扱えるかも知れねえ。


「おい。こっちがトイレで隣が風呂だよい。台所とソファの辺りは好きに使え。その扉は俺の部屋だから開けるなよい」

「はい」


部屋の中を説明してやると、素直に返事が返ってくる。


「年はいくつだ?」

「6才です。あの、近くにコンビニかスーパーありますか?」


6歳…小学生、でいいんだよな?保育所とかだったか?


「コンビニなら近くにあるが…菓子でも欲しいのか?」

「晩ごはん買いに行きたいです」


……そうか。こいつの飯もなんとかしねえといけないのか。


「…はぁ。解ったよい、連れて行く」


場所だけ教えてくれればいいと小さいのは言ったが、一人で歩かせていいのか解らねえ。面倒だが一緒に行く事にした。

小さいと歩くのも遅くて、俺は何度も振り返った。
小走りのようにチョロチョロと着いてくる。そのうち転ぶんじゃねえだろうか?


「…おい。一応俺がお前の世話をする事になったが、子供は苦手なんだ。変なサービスを期待しないでくれよい」

「はい」


あくまで『仮に』面倒を見るだけでお前の兄貴や家族の代わりをするつもりなどないと伝えておいた。
変に懐かれでもしたら面倒くさい。

そいつはやっぱり、はいと返事をした。



コンビニに着いてからカゴを持ち、俺の分の夕飯や酒なんかを入れて行く。


「うろちょろすんなよい」


離れて行きそうになったそいつのパーカーのフードを掴んで阻止。
これだから子供は、と思っていたら、側にいた店員の女が俺たちを見て笑った。


「うふふ、弟さんとで買い物ですか?」

「いいえ。この人はお兄ちゃんじゃなくて、さっき会ったばったりのよく知らない人です」


間違っちゃいないがこのご時世、嫌な誤解を招く様な事をサラッと言った。
案の定、店員は『え?もしかして誘拐?』みたいな胡乱げな顔をして俺を見た。


「いや、知り合いの子なんだよい!」


慌てて阿呆の口を塞いだが…余計に怪しい気がする。
店員は曖昧に笑うと何故かスタッフルームに駆け込む。

俺はカゴを置いてチビの手を掴んで店から出た。


「おい!変な事言うんじゃねえよい!誤解されたじゃねえか!」

「…わたしは言われたとおりにしたのに、なんで怒るの」

「あんな言い方じゃまるで俺がお前を拐かしたみたいだろい!」

「かどわかした?」

「攫ったって事だ!」


通報されていたらどうすんだ、とイライラしながら歩いていた足がとまった



…あれ?こいつ今、私って言わなかったか?


「…なあ」

「はい」

「……お前、女の子かい?」

「そうですけど」



なんで野球帽被ってんだ!
なんで半ズボンなんだ!
青い鞄を担いでいただろい!!


どうすんだよい、この…女の子。


……自慢じゃねえが、俺はサッチと違って同棲した事ねえんだよいっ!!





勘違いも

いいところ。






(先に言え!)

(…ごめんなさい)

(〜〜ああ、いや、…怒鳴って悪ィ、頼むから泣くなよ?)




ありがとうございました!
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