小話2

□23日の戦い。
2ページ/3ページ




(マルコ)


幾つかの書類を机に広げて、俺と彼女は処理に勤しんでいた。
処理もお互いに慣れたもので直に終了する。


「…ふー。なんとかメドが付きそうだよい」


小休憩、とばかりに俺は凝り固まった肩を揉む。


「そうですねぇー…」


彼女は腕を伸ばして身体を解す。
そして思い出したように俺に言った。


「マルコ隊長、知ってますか?今日23日はフミの日らしいですよ」

「2、3でフミ…って事か。そういう語呂合わせなら何の日でもありそうだよい」

「息抜きに何か書きません?私は隊長に手紙書きますから、マルコ隊長は私に何か手紙ください」


机の上に白紙を取り出して一枚を俺に渡す。


「俺とお前で、今更手紙もないだろい?」


オヤジの元でどれ位一緒に過ごしたと思っているんだ?
食事も酒も、船の上でも陸の上でも。


「あら、いいじゃない?手紙だから伝えられる言葉もあるでしょう?マルコ」


彼女の言葉から『隊長』が取れ、仕事ではなくプライベートだと暗に言う。

彼女は俺の家族であり、仲間であり、一番隊の部下であり…俺の女だ。

どうやら休憩という事で、一旦部下から女に戻ったらしく、彼女の口調も気安い言葉に切り替わる。


「ふふ、見ちゃダメだよマルコ。後ろ向いて書く事にしましょう」


椅子を動かし背中合わせに座り直す。


「…口で言えばすぐだろい」

「そこをあえて紙に書くのが良いのよ」


どうしても書かせる気らしい。

俺の方は宛名に彼女の名を書いたところで手が止まっていたが、背後からはカリカリと書き込む音が聞こえてくる。


「どうしたの?そんなに悩まなくても思った事とか書いてみたら?」

「…いや、悩むなと言われてもな…」


彼女が小さく笑う。


「ねぇマルコ」

「なんだよい」

「私達、今まで戦闘とかで死にそうになったりしたわよね」

「ああ、そうだな」


共に死地に向かったのは一度や二度じゃない。
不利な状況でクルーの退路を作ったり、報復に向かってくる敵船や海軍相手に何度も共に戦った。

俺は悪魔の実の能力があるが、彼女にはそんなものはない。
生きてモビーディックに戻っても、その身体はボロボロになっている場合が多い。


『オヤジの為に出来た傷は、全部勲章よ。見せびらかして歩きたいぐらい』


そう笑い飛ばしている彼女に俺は惚れていた。


「命掛けって慣れてるでしょ?」

「………まぁ慣れはしないが、場数を踏んだ分の度胸は付くな」


俺がそう答えると、また小さな笑い声。


「…マルコ、手紙の内容にリクエストしていい?」

「ああそうだな、何かお題があると書きやすいよい。頼む」


彼女から手紙に関する手助けが貰えそうで少しホッとした。
手紙と言うのは形に残るから下手に残したくはない。

書類ならば処理は慣れているが、女に手紙を書くなど…それはまるで。


「私、マルコからのラブレターが欲しいわ」


ぐ、と詰まる。
今まさに頭を過った単語が彼女の口から飛び出したからだ。


「………」


押し黙る俺に構わずに彼女が言う。
顔が見えないが、してやったりと笑っているのが目に浮かぶ様だ。


「命掛けで書いてね。貴方が死にたくなる程の恥ずかしい言葉で、私に愛を語って」


彼女の仕掛けた思惑にまんまとハマった俺は頭を抱えた。


「………難易度高すぎるよい」

「あら場数を踏んだ分の度胸はあるんでしょ?」


あっさりと退路を塞ぐ。
策を練るのが上手い彼女の事だ、口で丸め込むのは骨が折れる。

だが、俺に勝機が無いわけではない。


筆を置いて席を立つ。
彼女の手元には『手紙』がすでに出来上がりつつあった。


「あ、まだ覗かないで…」


紙を隠そうとする手を掴んで握る。


「…好きだ、お前を大事に思ってる。怪我すれば心配だしいつも無事を祈ってるよい」

「なん、…急にどうしたの?!」

「…いや、やっぱり手紙は無理だよい。今言うから、勘弁してくれ」

「だめよ、今のそのまま書いて。マルコの恥ずかしい言葉を何度も見返してニヤニヤしたいの」

「……お前悪趣味だな」


やっぱり駄目か?
今の言葉でも結構厳しかったんだが、俺にとっては。


「ふふ、そうだなぁ…じゃあ私がマルコに書いたこのラブレターを音読してくれたら許してあげる」


彼女が俺に突きつけた紙に目を通すと、何故か宛名が彼女宛のラブレターの文面。



「さんはいっ♪」


俺が呻いたのは言うまでもない。






愛は

態度で

示すもの。







(………これ、本気で読ます気かい?)

(嫌なら文面マルコが考えたら?)




拍手をありがとうございました!



→サッチ
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ