小話2

□とある春の一日。
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(とある春の一日)
(マルコ)



……春だな。

島について見事な満開の桜に出迎えられて、全会一致で『花見だ宴だ』と決まった。

着いて直ぐに始まった宴は夜桜を楽しまないでどうする?と日が落ちても終わる気配がない。

桜の周りに敷き詰められた赤い敷布の上、あちこちで乾杯の音頭が未だに聞こえる。

俺も桜の下に座り島の地酒を飲んでいた。


「マルコ隊長、お隣いいかな?」

「ああ、いいよい」


モビーディックの紅一点が一升瓶と、なにやら小瓶を引っ提げてやって来た。


「一杯いかがですか?秘蔵の酒らしいですよ」

「へえ、そりゃあいいねい」


盃を彼女に向けると、一升瓶から酒を注いでくれた。


「………うまいな!」

「でしょう!」


もう一杯どうぞ、と彼女に勧められるまま盃を受ける。


「あ、マルコ隊長!ちょっと待って下さい」


二杯目を飲む前に彼女の制止が入る。


「何だい?」


俺の盃に手を伸ばして、小瓶を傾けた。

ぽちゃん、ぽちゃん、と小瓶の中身が盃に足される。


「…………何だい?」


見た感じに変化はない。
色にも匂いにも。


「どうぞ飲んで下さい」



俺の質問には答えず、彼女は促す。


もしかして味でも変わったのか?
俺はその盃に口をつけた。


「………飲みましたか?」

「ああ。味も変わらないみたいなんだが?これも島の地酒かい?」


改めて彼女に尋ねつつ、盃に残った中身を飲み干す。


「いえ、地酒じゃないです。島で造っている惚れ薬です」

「……ッ……〜ゲホゲホッ!」


彼女の返事に俺は思いきり噎せ返った。


「ふふふ、大丈夫ですか?」


労るように彼女の手が俺の背中を撫でる。


「……ゴホッ、ほ、惚れ薬だと言ったか?」

「いいました。飲んでから最初に見た人を好きになるんだそうですよ?」


つまり私ですね!と彼女は満面の笑みで告げる。


「お前がそういう真似をするとは…考えなかったよい」


惚れ薬?
最初に見た人を好きになる?


………そりゃ意味がないよい。

そんなもの飲む前から、俺は彼女が好きだと自覚がある。




そうとも知らず、彼女は薬の効果を確かめたいのかキラキラした目で距離を詰めてくる。


「で、どうですか?マルコ隊長!…私に対してドキドキしちゃったりしますか?」


ああ、唇が近いな。
体が近い。
…腕が触れている。

上からハラハラと散り行く桜の花弁が降り注ぎ、暗闇を白く彩る。


「マルコ隊長?」


俺は持っていた盃を起き、変わりに彼女の手を取った。


「…まっマルコ隊長…あの!」


そして彼女の手に唇を押し付けた。

……せっかく『いい機会』をくれたんだ、乗っからせて貰うよい。


「ままま、マルコ、隊長……ッあのちょっと…」


夜明かりでも解るほど顔を真っ赤にして彼女は慌てていた。


構わずに引き寄せる。
彼女の顎に手をかけて上向かせた。


「好きだよい」

「…………!!」


以前からの気持ちを口にする。

赤い顔のまま口を閉じたり開いたりしながら言葉を探す彼女。

……返事をしてくれるんだろうか?
何か言い出す前に俺は顔を寄せる。


「……キスの時は目ぐらい閉じるもんだよい」


口を開けていてくれるのは構わねぇが。



俺の言葉を聞いた彼女はぎゅう、と目を閉じた。
ついでに口もきつく引き結んだ。


………………。
つまり。
イイって事だよな?



ちゅ、と軽く唇を重ねた。



唇が離れると彼女は顔を両手で覆って呻いた。

呻きながら、言った。



「ごめんなさい、ごめんなさいマルコ隊長!」

「……ああ?」











今日は

4月1日です!








(ウソついてごめんなさい〜〜!でも私、ずっとマルコ隊長の事が好きだったんです!ただの水だってサッチ隊長がくれたから効かないと思ったのに!)


(……安心しろ、それはただの水だし、俺のは嘘じゃない)

(……え?それって…)

(結果オーライって事だよい)




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