小話2

□とある春の一日。
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(ある春の一日)
(エース)



とある春島。

桜が見事に満開でモビーディックのクルー全員で『花見だ宴だ!』と飲んだくれていた。


島について直ぐに始まった宴会は日が落ちても終わる気配がない。

赤い敷物の上に胡座をかいて俺は酒を飲んでいた。


「エース隊長、隣に座っていい?」

「ん?ああ座れよ」


にっこりと彼女は笑うと俺のすぐ横に座った。


「ふふふ、エース隊長、好きですよ」


「…あっそ」


手に持っていた杯を空ける。
じわり、と体が温かくなるのはアルコールのせいだけじゃない。

オヤジの息子になってから彼女と知り合い、仲を深めた。

だけどある時期から彼女はコレを言い始めた。



(ああ、私エースの事好きだな。うん好きだよエース!)


(エース、エース!…今日も好きだよ)

(ところでエース隊長。好きですよ)



二番隊の隊長になってからはわざわざ呼び方を変えてそれでも言うんだ。

飯の途中だったり戦闘の最中だったり、24時間・年中無休って具合に毎日毎日。



言われる度にこそばゆくて照れ臭くて、……嬉しかった。


好きだという言葉が鬼の子として疎まれた記憶を丁寧に塗り替えてくれた。


言ってくれる一言一言が、真剣に『好き』を込めてくれていると伝えてくれたから。



でも俺はそれに一度だって答えなかった。


『へえ』
『そうか』
『あっそ』


いつもこの言葉を彼女に返していた。


だって俺の気持ちを話したら……きっともう彼女はソレを言ってくれないと思うんだよ。

何つーかもう追い掛けて来てくれなくなるんじゃないかと思っちまったんだ。


「……エース隊長。実は今ので記念すべき一万回目です」

「数えていたのかよ?お前」


一万回目。
そんなになるのか。

そんなにたくさんの気持ちを貰っていたのか、俺は。

彼女はちょっと俯いた。
だから俺の口元が綻んだのに気が付かなかった。


「…うん、一万回。でももう言わない」


身体中にアルコールが回って熱いくらいだったのに彼女の言葉を聞いて、俺は冷や水を浴びたみたいにギョッとした。


「好きだともう言わないよ」

「…………」


言葉が出なかった。


「エース隊長の事をもう追い掛けない」

「…………」

「毎日、エース隊長の事ばかり考えるのを止める」

「…………」

「忘れていいよ私の気持ちなんて」

「…………」

「私の気持ちに一度だって答えてくれないんだもんな、エース隊長」

「…………」

「私が好きか嫌いかも教えてくれなかったね」

「…………」

「……最後にする。これで諦める。良く聞いてね、私はこの後、サッチ隊長の所に行きます。優しく慰められに行ってもしかしたらグラッときちゃうかも。いいですか?エース隊長」


一息ついて彼女は言う。


「嫌になるくらい好きよ、エース隊長」

「…………」



沈黙。

桜がヒラヒラと暢気に散る。
俺はやっぱり言葉が出なかった。

彼女は俯いたまま立ち上がった。


「………そうですか。さよなら」


がちゃん、と酒瓶が倒れて中身が流れ出す。


「………ッ!?」


驚いた彼女が俺を見返す。

俺の手が、引き留めるように彼女の手を掴んでいた。


言葉より早く、俺の体が叫んでた。

そのまま引っ張って抱き締める。
やっと言葉が追い付いた。


「………行かないでくれ」

「えっエース隊長?!ちょっとあの…」


彼女がもがくが力ずくで離さない。
離してたまるか!


「好きなんだ、俺だってずっと……!!」


彼女の動きが止まる。

俺の腕の中でブルブルと震える感触に『うお、泣いてんのか?』と焦った。







「……ふふふ、…あははは!ああもうやっと言ってくれた!」

「!?」


彼女は泣くどころか笑いだした。


「エース隊長。もう好きって言わないっての嘘です」

「…………は?」

「ちょっとした作戦ですよ。だってエース隊長ちっとも答えてくれないから焦れちゃって。一か八かの大作戦です」

「………ウソ、だと?」

俺の苦悩を返せよ、お前!
お前がどっかにいっちまうとかマジで焦ったんだぞ!


「あれ?もしかしてホントに解ってなかった?だって今日は……」


満面の笑みで彼女は言った。











It's


Aprilfool!







(〜〜〜うっわ、嵌められた!チクショウ忘れてた!)


(うふふ、これで私たち、両思いって事ですね?エース隊長!)


(〜〜〜〜うっせぇな、そうだよ!)





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