小話2

□気になるあの子。
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(バス停/MARUKO)
(※現パロ)


この国の人は大概時刻に正確だ。

公共機関の乗り物は時間に必ず着くし、打ち合わせには早めに着いて当たり前、という風習には驚いたものだ。


だが慣れてしまえば快適この上ない。


今日は遅くなり一本時間がずれてしまったが、仕事帰りのバスを待つ。
時間に必ず来るというのは疲れている時ほどありがたい。



バス停に立っていると、歩いてくる人影が見えた。


………ああ、またあの子だ。

数ヶ月前から同じ時間帯のバスに乗り合わせる女の子が居る。



今日は時間がずれてしまったが、彼女の方も用事があったのか一本ずれたようだ。


向こうも俺に気が付いたようで、目が合った。



路線が悪いのか時間が悪いのか、ほとんど毎日バスは貸し切り状態だ。

そうなると乗り合わせる顔触れは決まっていて、彼女とは顔見知りだ。

…とは言え一度も話した事は無いんだが。





今の時間は陽は完全に落ちている。

辺りは真っ暗だというのに、女の子が一人で出歩けるのは治安が良いからだろうが…。



ちら、と彼女の服を見る。


短いスカート。
綺麗に整った髪の毛。






………、黒い髪の毛はやっぱり綺麗だと思うよい。


髪の質が違うのだろうか?

見慣れたブロンドよりサラサラしているように見えるし、真っ黒で長い髪は『東洋の神秘』的な印象を受ける。




しかしその短いスカートはいくら治安がいいとはいえ、大丈夫なのかい?


バス停の道を挟んで向かいの電柱にかけてある『痴漢注意!』と書かれた看板が目につく。



女の子なら夜遅くのバス停に並ぶならもっと危機感を持った方が…と余計な事を考えてしまう。


歳のせいか?
この子から見たら俺はおっさんだしな。


一定の距離を置いて立ち、バスを待つ彼女の事は日に日に気になる存在になっていた。


…もしかしたら一方的にこの子の父親のような気になってんのかも知れねぇよい。


毎日一言も交わさないが、彼女の事はよく考える。




(今日はショートパンツかい。…ずいぶん痩せて見えるがちゃんと飯を食っているんだろうか?)


(今日は買い物帰りだろうか?大荷物だ。その細い手には重くはないだろうか?)


(へえ、髪を結ぶと印象がまた変わるな。美容院にでも行ったのかい?)




人の居ないバス停に少しの距離を置いて並んで立つ毎日。


少しの変化にも俺の意識は彼女の事に向いていく。



どんな声で話すのだろうか?

どんな風に笑うのだろうか?


……急におっさんが話しかけたら、驚くだろうか?


考え事に夢中になっていた俺の頬に何か触れた。


何だ?と思ったら、すぐに雨が降り始めた。


にわか雨かよい、予報が外れたな。
傘は持って来てないんだが…。


バスが来るまでにはまだ数分あるが、雨足は強くなる一方だ。

女の子は鞄から折りたたみ傘を取り出し、さしていた。


さっきから何故かこちらをチラチラと気にしている。



彼女は今日はなんだか来たときから落ち着きが無いような気がしていたが…?


………何だ?
俺が何かしたかい?





『痴漢注意!』

ふと看板が目についた。


……………………。



…いや、違うだろ!
たまたま今日も時間が同じになっただけだよい!


確かに彼女の事は毎日気にはしていたが、どうこうしてやろうと思ってストーキングしていた訳じゃねぇ!



それともやっぱり俺が毎日気にしていたのに気がついていて不愉快な思いを抱いていたのだろうか?


俺が葛藤していると、意を決したように彼女が距離を詰めた。

「………あの」


『警察呼びますよ』という台詞が頭を過ると同時に、ああ、こんな声で話すのか、と思った。


…この地の人々はまだ外国人に対して当たりが厳しい所もある。


俺が誤解だと、口を開く前に彼女が思い詰めた顔で告げる。














「め、めーあいへるぷゆー?」


「………………」



俺の身体が濡れないように、彼女は手を伸ばし傘を差し向けながらたどたどしく言った。



俺は思わず額に手を当てた。

〜〜阿呆か、動転しすぎだよい!



彼女の事を考え過ぎてとち狂ったのか?
ああクソ、情けねえな。





Japanese O.K!




「…ええと、大丈夫ですかって何て言うんだっけ?!」


「……ありがとさん、日本語は話せるよい」




(……この外人さん『よい』って言った!)


(近くで見ると、やっぱり可愛い子だよい)




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