小話2

□気になるあの子。
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(電車の中/ACE)
(※現パロ)



『この時間帯の電車には乗らない方が良いからね!』


友達から常々言われていたけれど、私は可愛くないし大丈夫!とか言って笑ってた。


ぎゅうぎゅう詰めの朝の電車には『出る』のだ。


もちろんそれはお化けではなく、しっかりと足が生えている。


「……………ッ…」


身動きの取りにくいのを良いことに、どっかの変態の手が腰からお尻にかけて蠢く。


うわぁ、キモいキモいキモい!!
初めは勘違いかもとか思ったけど、マジっぽい!!


変態の手が、お尻を掴んだ。
いや掴むっていうか揉むっって言うか!いやー、やだやだ!


何でか、声が、出ないんですよ。

今ここで『痴漢です!』とか言えば良いのか?!
〜〜〜無理言えない恐い!




どうしよう、逃げたい、やだここに居たくない。

次の駅までまだ少し時間があるのに最低!最低!


「〜〜〜〜、ッ!!」


体が硬直する。


〜〜〜〜この変態!変態ッ!

触るな、やめろっての、やだ!ちょっと……ッ!


抵抗しないと解ったからか、スカートの裾から手が潜り込み、足を撫で上げた。


手が、そのまま上に這い上がってくる。


ッいやだ、いやだ!!

何なの無理だよもう無理!
気持ち悪い恐い!

誰か誰か誰か…ッ!
なんで私が、こんな目に…!


限界、と涙が滲んだその時。







「おい、おっさん!さっきから俺の尻撫で回してんじゃねぇよ。ホモかよ、気持ちが悪ィんだよ!!」



私の横から、男の子が首を後ろに捻って後ろのおじさんに向かって吐き捨てた。


「な…何を言って、」


どうやらおじさんは犯人だったようで、居心地が悪そうに視線を泳がせた。


周りから『何?痴漢?』『ホモの痴漢だって』『やだ〜』と、笑い声と小さなざわめきが起きた。


電車はやっと次の駅に着いた。

男の子が呆然としていた私の腕を掴んだまま流れに乗ってそのまま駅に降りた。


「おい、大丈夫かよ?」


私を椅子に座らせて男の子が尋ねる。


横目に早足でホームを歩き去るおじさんの姿が見えた。


途端に、どっと安堵が押し寄せた。




「あ、ありが…とう〜〜…」


ボロボロと目から涙が出た。
声も震えて、普通に話せなかった。


「おい泣くなよ!」

「こわ、怖かったぁ…ううう…」


「大丈夫!もうアイツ居ねぇし!な?」


男の子は、私の涙にびっくりするほど狼狽えた。


私の顔を自分の制服の袖で乱暴に擦る。

涙を拭ってくれたようだ。



「えーと…ほらアメ食うか?ガムもあるぞ!あとなんだ…チョコ!チョコが良いか?全部やるよ!!」


そしてあたふたしたまま制服のポケットを漁って細々しいお菓子を取り出し、私の手に握らせる。


手からこぼれ落ちるほど渡されて、私は思わず吹き出した。



「ふ、ははは!ありがとう!」

私が笑うと男の子はほっとしたように笑い返した。


そして制服のポケットをまた探り、私の持つお菓子の山に追加した。


「それもアンタにやるよ。次に痴漢にあったら刺してやれよ!」


それは、校章だった。


「え、これは貰ったら悪いよ!」


安ピンくらいならまだしも!


「いいよ、予備あるし。じゃあ気をつけて学校行けよ」




男の子は私の頭に、ポン、と手を置いてから走り出す。


「え、あの!待って、名前…」

お礼もしていない、と言えば男の子は振り返った。


「礼なんか、もう聞いた!次はあんなのに負けんなよ!」


にか、と笑った男の子の顔に胸が鳴った。





駅のホーム、出勤や通学の時間帯で人がたくさん行き交う。


雑踏に紛れぬように、大きな声で男の子は言った。












アンタさ、
笑うと可愛いな!










(じゃあな、遅刻すんなよ!)
(ちょっと待って、名前…!)

(ああ、俺はエース!以後よろしく!)


(エース君か…いい人だ…)



名乗った後、今度こそ走って行ってしまったエース君を見送った。

…また明日、会えるかな?







拍手ありがとうございました!


→(マルコ)




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