小話 1
□コンプレックス。
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(コンプレックス/味覚)
(※THATCH)
俺がプレゼントした白いエプロンを付けた彼女がキッチンの中で忙しそうに立ち回る。
食堂には食欲を誘う、芳しい香りが漂い始めた。
そして、エプロンを翻して俺の元にやって来る。
「サッチ、出来たよ!」
「あー、良いわ!ちょっと『お待たせ、アナタ』とか言ってみて〜」
新婚みてぇ、と言えば、睨まれちまった。
「アホ言ってないで、食べてみて!」
机に、俺の分と彼女の分の二皿の料理が置かれる。
「今日はトマトソースパスタだよ!」
「そっか、んじゃーいただきます!」
気合いを込めて、手を合わせる。
見た目は合格だ、頑張れ俺!!
フォークで巻いて口に運ぶ。
口に広がる、ミョウガの味。
…………なぜ、ミョウガが?
いや、トマトソースってどうやったって玉ねぎだろ?
そしてこの緑色の葉っぱ、ミントか?!
何故入れた?!
「どう!?美味しい?」
…どう、と言われても。
トマトソースの筈がトマトの味よりミョウガが勝っている。
何より後味に強烈にミントが残る。
「斬新、だな…」
「何それ?」
むっとして、彼女もパスタを口に運ぶ。
直後、吹き出す。
「〜〜うっわ、不味っ……何これヤバイ!!」
口を押さえて、驚愕に目を見開く。
「…まぁよ、次は普通に作ってくれよ」
俺は彼女に向かって笑ってやる。
一所懸命にキッチンの中を駆け回る姿を見てたからな。
だが彼女は、ぐ、と唇を噛み締めて項垂れる。
「…ごめん、サッチ。毎回毎回作る度に失敗ばっかりだ。…ミョウガもミントも、美味しいと思ったんだけど……」
彼女は味の想像力がない。
切るのも、炒めるのも、揚げ物だって手際よくやる。
だが、素材や調味料の組み合わせが壊滅的なのだ。
そのため、味は…正直クソ不味い。
しょっぱい、甘過ぎはしょっちゅう。
激辛なのに、なぜか後味がフルーティだったりする。
もしくは、味がしない。
素材の味しか、しない。
それでもめげずに、手料理に挑戦すんのは良い心がけだ。
けどよ。
「なぁ、次から味見をしてみたら良いんじゃねぇか?」
そうすりゃ、ちょっとはマシになるだろ?
「………毎回、味見はしてるもん」
ぐしゃ、と彼女の顔が歪む。
「うわあああん!やっぱりダメだ!私の料理はクソ不味いんだーー!お嫁に行けないよ!」
やっべー!泣かしちまった!!
つーかよ、味見してたのかよ?!味見してコレか?!!
「おい、泣くなって!大丈夫だ、見た目は旨そうだしよ!」
「見た目だけ出来てても仕方ないじゃん!」
まぁ確かにな。
これ毎日食わされたら、発狂すんじゃねぇか?
口が裂けても言えねぇけど。
「お前ェは俺の嫁になりゃ良いさ!飯なら俺が毎日食わしてやるからよ!」
机に突っ伏したまま泣く彼女の頭を撫でながら言う。
ま、嫌だっつっても聞かねぇし、他の奴にも渡す気ねぇけどな。
「…何それ、プロポーズ?」
「そ。…だからさ『はい、あーん』ってやってくれない?」
驚いたように目を見開く彼女に、俺は言葉を続ける。
「そうすりゃお前の作ったもん、俺が何でも食ってやるよ」
吹き出して彼女は笑う。
「ははは、あはっ!サッチって安い男ね?そんなので、これ食べる気?」
くるり、とフォークでパスタを巻き、俺に突き出す。
「『はい、あーん』?」
『食えるなら食ってみろ』と言う悪戯顔の彼女に、満面の笑みを返し応える。
「俺が安い男?…お前が高い女なんだよ!」
口を開けてパスタを喰う。
目の前には、真っ赤な顔して口を戦慄かせる彼女。
ああ、
クソ不味い
君の愛情!
(じゃあ、お前は今日から俺の奥さんって事で!)
(え、マジで?本気なの?!)
(当たり前でしょ!)
ありがとうございました!
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