小話 1
□髪にまつわる小噺。
1ページ/3ページ
・髪にまつわる小話
(海賊/THATCH )
心地よい風が吹き抜ける。
天気は良好、風向き良好。
モビーディックは順調に航海中だ。
が、私の仕事は絶不調!
サッチ隊長のサインが必要な書類が溜まりまくってんのに、隊長が見当たらない!
マルコ隊長には「早くしろよい」とせっつかれてるのに!
まったく何処でサボってやがる!
あんのリーゼント野郎!!
私は船内に見当たらなかったサッチ隊長を探して甲板を捜索中だ。
早くしないとサッチ隊長の代わりに私がマルコ隊長の説教食らうかも知れないじゃないか!
あちらこちらとあの目立つリーゼント頭を探すが見当たらない。
私は駆けずり回ったあげく、空樽の山で出来た日陰の隙間に隠れるように寝転ぶ白い服をやっと見つけた。
日陰、かつ、風通りがいい。
……ここ、昼寝に絶好の場所だ。
ちくしょう!私が駆け回るなか、昼寝だと?
書類をぐしゃりと握り締めてしまった。
「隊長、サッチ隊長起きてください!」
「んぐー…」
大声で呼び掛けるも、熟睡中。
「ちょっと起きろ!リーゼント野郎が!」
「んがー…」
罵ってみたが、爆眠中だ。
「はぁ…最低。起きろよ、ちくしょう!」
起きる気配の無いサッチ隊長に脱力して、頭の近くで屈み込んでしまった。
…………。
風にリーゼントが揺れる。
…このリーゼント、ちょっと触ってみていいかな?
前から気になっていたんだよね!起きないみたいだし、樽の陰なら人目も気にならない。
私は普段見上げるだけのサッチ隊長の頭を見下ろしながら手を伸ばした。
髪に指が触れる。
…もふってした!!
うっわ、これ面白い!!!
今度は撫でるように手を動かす。
……もふもふ!
面白い感触に、髪型を崩さないように撫で続ける。
「隊長ー、起きないとイタズラしますよー」
聞こえてないだろうけど、隊長に向かって小さく呟いた。
「サッチ、やっぱりここでさぼってやがったな」
後ろから掛けられた声に、慌ててリーゼント頭を撫でる手を引っ込めた。
「ま、マルコ隊長、気配消して近づかないでくださいよ!」
「悪ィな、癖だよい」
ニヤニヤと笑われた。
…見られた!やっぱり見られたんだ!恥ずかしい!
マルコ隊長はバツが悪くて視線を逸らせた私に構わず、無造作に足を振った。
そのままサッチ隊長の顔面を蹴り飛ばした。
ゴッ、という鈍い音がして、サッチ隊長がぶっ飛んで転がって樽にぶつかった。
「…うわあっ、マルコ隊長!っていうかサッチ隊長!」
ぶっ飛ばした方へ平然と声を掛けるマルコ隊長。
「起きてんだろい、むっつり野郎。さっさと働け」
ゆらりと起き上がったサッチ隊長は、鼻血を吹きながら立ち上がった。
「…マ〜ル〜コ〜!もうちょいでイタズラしてもらえるとこだったんだぞ!」
「ちょ、サッチ隊長寝たふりしてましたね?!」
失態を忘れて憤る私にサッチ隊長はウインクをかまして言った。
「お前ェがあんまり可愛いことしてくれたから、鼻血吹いちまったぜ?」
「…いや、マルコ隊長に蹴られたからですよね?」
明らかにそうじゃないですか?
鼻血を拭うと、サッチ隊長はご機嫌に言う。
「チューしてくれたら働いてやる」
「…は?」
「寝てるのを起こすのは、チューが基本だろ!さ、やり直せ!」
ごろり、と改めて寝転ぶサッチ隊長に、私の隣に居たマルコ隊長から怒気が吹き出した。
マルコ隊長に及ばずながら、私からも。
サッチ隊長
私の蹴りも
食らいますか?
(おいおい、お前ェなかなか激しい女だな〜)
(マルコ隊長!押さえてください!)
(まかせとけよい。思いきりいけ!)
ありがとうございました!
→NEXT MARCO