小話0

□Up down girl.
2ページ/3ページ




(エース)




「……大丈夫か?」


見慣れた精悍な顔がわたしを覗き込む。
その目に心配そうな色が揺れていた。


「…うわあエース、う、あいたた…ッ!?」


寝転がっていると気が付き焦って起きようとしたら、後頭部に鈍痛。


「まだ寝てろって。痛むんだろ」


わたしの顔面を押さえるように、無遠慮な掌が荒っぽく乗った。


「………ねえ」

「なんだよ」

「………こ、これ…膝枕…?」

「う、うるせえ!」


どういうことなのかわたしはエースの膝に頭を乗せ、横たわっている。

何故?!なにゆえ膝枕?!!


「………、サッチ話してたらデッキブラシで打ち合いになったんだけど…」

「?」


ごほん、と咳払いが一つ。


「サッチが振りかぶったデッキブラシを避けたら、その先にお前が居たんだ」


ああ、この痛みはそのせいか。
お前ら遊んでないで掃除しろよ。

ズキズキと鈍痛はあるけれどエースの膝枕効果のおかげなのかな?痛みが和らいだ気がする。
…わたしは膝枕ぐらいなんでもないですって顔をするのに苦労した。


「なんか後ろで煩いなと思ってたら、二人揃ってそんな事して遊んでた訳?」

「違う!…けど、巻き込んで怪我させてごめん」


口は悪いのに、いざ悪い事をしたと思えば必ず謝罪する。
こんな風に雑だけど優しくされると、ふわふわと胸の中に温かいものが浮かんでくる。


「ううん、わたしこそ避けられなかったなんて情けないよ。気が緩み過ぎて弛んでた」


エースの脚って硬い。
筋肉質な男って膝枕向きじゃないよね、柔らかみが少ないから。

…でも、気分は悪くない。
だってあの暴れん坊エースの太ももにわたしの頭が乗ってんだよ?!


「お前は悪くねえだろ、反省するのは俺とサッチだし、サッチはあっちでマルコの前で正座して怒られてるぞ」


ウチいる時はもっとふざけて遊んだりしてても良いんじゃねえの、と拗ねたような口調で言う。

エースを見上げるなんて事はなかったから、この体勢やばいな!!

いつもと違う角度だしなんかこう…心臓の異常鼓動が止まらない。
帽子を外して背中に投げる仕草にさえ胸が早まる。

…なにこれわたしこんな乙女チックだった?!


「さっきより顔が赤いけど。熱いのか?」


わたしの頭に掌が触れた。
火拳のエース、その掌は体温も高く、わたしの肌に触れると温かく感じた。


「多分、傷跡とか残らねえと思うけど後で医務室行けよな」

「…うん」


熱があるか確かめるためなんだろうけど、この発熱は痛みじゃなくて君のせいなんだけどね。


「わ、わたしの頭、重くない?!もう大丈夫だし洗濯の途中だったし戻るから!」


膝枕なんて偶然、次もあるか解らない。
名残惜しいし出来るならずっとこうしていたいけど。

…甲板って結構人が多いしさっきからめちゃくちゃ見られてるし、ていうかわたしがエースの事好きなの皆知ってるんですよ!本人以外は!!!

生暖かい笑顔と『良かったな!』とハンズアップを送ってくるクソ兄貴どもを黙らせたい。


「洗濯なら後で俺も手伝ってやる。良いからもう少しここで寝てろよ」

「っ!」


犬猫でも撫でるような手つきで、エースはわたしの髪をワシワシと乱暴に撫でる。


「はは、お前の髪って柔けえんだな。女みてえ」

「…〜こう見えて、わたし、産まれた時から女なんですが」


顔を掌で隠して照れを隠す。
口からは素直じゃない言葉が溢れる。
ありがとうございますってまだ言ってないのに。


「…っ、ご、ごめん!そうだよな、…悪い…」


怒るでもなく、くく、オロオロとした声を出し撫でていた手を離すエース。
この人は何を焦ってんだろうか?
思わず顔を隠していた手を外していた。


「俺さ、お前がいろんな事を頑張ってんの見てた。今くらい寝てても誰も文句言わねえよ」


恐る恐る、といった風に手が移動してわたしの手首を掴んだ。


「…っあ!」

「サッチが変な事を言ってくるから、ついムキになったんだ。だってあいつが言うにはさ、お前が俺を…ゲホン!!」


サボる気じゃなかったの?
だってエースは大食らいで肉好きで、サッチ隊長やマルコ隊長みたいにわたしと接してくれなくて…。

見上げたエースの顔、耳まで真っ赤になってる。


「……そういう顔されると、意識するっつーか、期待するっていうか…お前って結構、可愛いと思うし…」






…俺を好きって

それ本当?








(…っ誰だーー!!バラした奴!!)

(えッ?!)

(…あっ!)




→(THATCH)
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ